第6話 お姉さんにあーんされる

「え、それ、どういう意味ですか」


「ん? 『どういう意味』って、そのまんまだよ? はい、もうひとくち、あーん」


 お姉さんはさらりとそう答えると、また俺の口元にフォークを運ぶ。


「え、え? は、はい、あーん(もぐもぐもぐ)……うまっ」


 反射的に食べさせられてから、これ、今度はお姉さんも食べた後じゃん!! などと思う。するとお姉さんはイタズラが成功した後みたいな顔をして。


「あれー? キミも初対面の女の人と同じフォークでご飯食べられる人なんだぁ♡」


 なんとも嬉しそうな顔をした。


「……!!」


 動揺して口の中を噛みそうになる。


「え、いや、だって! お姉さんが食べさせるからっ」


「えー? じゃあ、嫌だった?」


 お姉さんは不安そうな上目遣いで見つめてくる。なに、その顔、可愛すぎて心臓に悪いんだけど。


「……い、嫌とかじゃないですけどっ」


 口ごもりそうになりながら答えると。


「じゃあ、誰にされても嫌じゃない?」


 さらにお姉さんは質問をしてきた。


「そ、それは……もちろん、他の人だったら嫌ですよ?」


 肉はうまいしお姉さんは可愛い、けれど、なんだよこの気恥ずかしさは。熱がこもった耳がジンジンとしてくる。


「……ってことは、私だったら嫌じゃない……、って……こと?」


 お姉さんは相変わらずの上目遣いのまま、期待と不安が混ざったような顔で俺をまっすぐに見つめる。


「……あー……はい」


「へへっ。嬉しいな。……私も、一緒……だよ?」


 もう、なんなんだよ、このお姉さんの上目遣いの破壊力。意味深過ぎないか。勘違いしそうになる。


「なっ……」


 気恥ずかしさで言葉に詰まっていると、お姉さんはふいっとそっぽを向いて。


「って、こーとでー! テーブル、片づけて、続き食べよっか」


 急に空気を変えるように口調を変えて、テーブルを片付けに行ってしまった。



「じゃあ、改めて……! いただきますっ」


 片付いたテーブルに料理を運び、お姉さんと向かい同士に座って手を合わせる。


 真正面から見るお姉さんは、やっぱりすごく綺麗だ。色白で、まつげが長くて、鼻筋が通っていて。まるでモデルか人形のよう。


「ね、ね、トマト食べてみて。ちょっと珍しくて美味しいトマトなんだよ」


「え? あ、はい。……あ、っま。すごく甘くて美味しいですね」


「でしょー? ふふ」


 お姉さんに促されて食べたトマトは赤いものと黄色のものがあるミニトマトで、食べた事のあるトマトより格段に甘くて美味しかった。


 お姉さんは嬉しそうに笑ってるけど、俺……いいのかな。


 なんでも屋のバイトに来たはずなのに、実質してる事ってお姉さんと話しながらメシ食わせてもらってるだけなんだけど。


 しかもさっき、A5ランクの黒毛和牛とか言ってたし。俺も何かお返しをした方がいいだろうか。


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