第5話 お姉さんの意味深な言葉
「じゃあ、早速食べよー!」
「はいっ!!」
お姉さんの声に、俺も勢いよく返事する。
目の前の料理はあまりに美味しそうで、しかも俺の好物ばかりで、早く食べたくて仕方ない。けれど。
「……って、あれ? どうしよう」
「あ……」
せっかくの出来立ての料理、テーブルに運ぼうとして手が止まる。せっかくのおしゃれなダイニングテーブルなのに、あまりに散らかっていて料理を置くスペースがない。
ソファーの前にローテーブルもあるけれど、そこも同じく、という状態。
「……あの。お姉さんって、いつもどこでメシ食ってるんですか?」
「え? それ、聞いちゃう?」
「はい、気になります。とても。まさか……」
「……えへ。気付いちゃった? ……いつもここで、立ったまま食べてる♡」
お姉さんはちょっと顔を赤らめながら、てへっと照れ隠しというように語尾にハートマークをつけた。
「やっぱり!! あーもー。『立ったまま食べてる♡』じゃないんですよ、せっかくこんな立派なテーブルがあるのに、もったいない」
「えー。ごめーん」
「俺がもっと早く気付いていれば、料理が出来るまでに片付けたのに……」
「んー」
お姉さんは料理を見つめて少ししょんぼりした顔をした。そして。
「ねぇねぇ」
俺の腕を軽くポンポンと叩いて俺を呼ぶ。
「はい、なんですか?」
「あーん」
「え?」
俺が『え?』というために開いた口に、お姉さんはフォークで肉を食べさせた。
「!? (もぐもぐもぐ)うっま……!?」
その肉があまりに美味しくて、思わず味わうことに集中してしまう。俺の中での肉の概念が変わりそうなほど柔らかく、舌の上でとろけるような食感。そして噛むたびに深い旨味と甘みが押し寄せてくる。
「ね、おいしい? 私の焼いたお肉ー」
「や、うまいっす。マジでうまいっす。こんなうまい肉食べたの初めて……。けど、なんで食べさせたんですか」
急にあーんと食べさせられた気恥ずかしさで、耳が熱くなるのを感じる。
「だって。今が食べ頃だと思って。せっかく美味しく焼いたのに、テーブル片付けてからじゃ冷めちゃうじゃん」
「まぁ……確かに」
「でしょ? しかも、A5ランクの国産黒毛和牛だよ♡」
そう言って、お姉さんもパクリと肉を頬張った。俺に今食べさせたばかりのフォークで。
これって……、間接キスじゃん……。
などと思うのは俺だけなんだろうか。お姉さんはあまりそういうのを気にしないタイプなのかもしれない。けど……。
「お姉さんって、初対面の男と同じフォークでメシ食える人なんだ」
つい、言ってしまった俺の言葉。
「んー? 誰にでも、ってわけじゃないよ?」
そんな俺の言葉に、お姉さんは少し意味深な言葉を言った。
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