第4話 お姉さんのエプロン姿

「よーし! じゃあ、今日は張り切っちゃおーっと!」


 お姉さんは艶やかなロングヘアをポニーテールにして、楽しそうにエプロンを付けた。髪を下ろしてるのも綺麗だけど、うなじが見えるのもやっぱり綺麗だ。


「今、ちょうど美味しいトマトがあるんだよ。キミはラッキーだね」


 お姉さんはそう言いながら、ふふーっと隠し持っていた秘密道具をお披露目するみたいな顔をする。


「え、それは嬉しい。ありがとうございます! トマト食べるとか久しぶりだ……」


 そして俺は思わずそんな言葉を返した。


「えー? トマト好きなのに久しぶりなの?」


「だって、トマトってちょっと高いじゃないですか」


「……そかな。キミは普段何食べてるの?」


 お姉さんは調理しようとしていた手を止めて、不思議そうな顔をする。


「あー。今の時期だったら、そうめんとか、冷やしぶっかけうどんとか……」


 恥ずかしげもなく、俺は貧乏学生の食事事情を口にした。


「えー!! そんなの力出ないじゃん!! 夏バテしちゃうよ?」


「いえ、今のところ元気です!」


 ガチ目に心配するような顔をされたから、俺はわざと力こぶを作るポーズをしてみせた。まぁ、実際は大した力こぶなんて出来ないのだけど。


「ふふっ。そっかー。よーし、キミのお肉は大きいのにしちゃう」


「え、うそ。嬉しい。お姉さんマジで神。肉ー!!」


 お姉さんのキャラがあまりにフランクだから、俺もつい、“なんでも屋と上顧客”という関係を忘れて返してしまう。


「えー神? ふふ。キミは持ち上げるのがうまいね。よーし、サラダにエビもトッピングしちゃお」


「うっわ、やった、エビ! 俺、エビも大好きなんですよ。エビなんて、サイゼリーファミレス行った以来です!」


「あはは、そんなに喜んでくれるの嬉しい。ちなみにそれはいつぶり?」


「えーっと、……2日ぶり?」


「えー!? なによそれー。全然最近じゃんーっふふっ」


 お姉さんは冗談ぽく怒ってから、楽しそうに笑った。

 そんなお姉さんとの会話は楽しくて……そして、心地いい。


「よーっし! かんせーい!!」


 サラダにパラパラっとパセリを振りかけて、お姉さんは満足そうな顔をした。


「うっわ、うまそう!! めちゃめちゃ映えメニューじゃないですか。お姉さん、センスの塊ですね!!」


「へへー。もう、キミはホントに褒めるのうまいんだから。ふふ」


 そんなお姉さんもまた、楽しそうで嬉しそうだ。


 出来上がったメニューは、エビ入りのサラダに、オニオンスープ、そして彩りよく付け合わせが添えられた高級そうな肉のステーキと、パン。

 

 このパンも、俺がいつもスーパーで買ってるような値引きシールの貼られたパンとは大違いの、なんか高そうなやつ。


 おしゃれで高級感のある食器の効果も相まって、まるで高級レストランの様だ。


 出来立ての湯気と、ステーキにかけられたニンニクの効いたステーキソースの香りが立ち込めて、なんとも食欲を刺激する。


 ――けれど。ここで大問題に気付くのだ。




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