第17話
半年に一度行われるD級昇格審査。
これはE級冒険者として一年しっかり経験を積んだ者が難なく合格できる難易度を目指している。
審査官ごとに多少の振れ幅はあるものの、毎回60%前後になるような合格率だった。
しかし、今回の昇格審査の参加人数25名に対して合格者数はたったの2名、合格率は10%を切るという高難易度の"試験"となってしまった。
そんなことはつゆ知らず、宿でタクミを待つフェリス達。
「タクミのやつ…あんな余裕な感じ出してたのに昇格出来なかったら笑えるな」
ガストンはニヤリと笑いながら呟く。
「冗談でもやめてくださいよ〜!今日の朝はタクミさんの様子どこかおかしかったんですから」
ここで昇格できなければ次の審査は半年後。昇格したらダンジョンに行くと誓っているフェリスからしたら、たまったもんじゃない。
「タクミさんはD級くらい楽々昇格してすぐに帰って来ますよ!」
そんなやりとりの中、何かを察知したラナが口を開いた。
「タクミ…帰って来たかも」
ガチャリ—音と共にゆっくりと宿のドアが開く。
「ほら!すぐに帰って来たじゃないですか—」
フェリスは意気揚々と出迎えた。しかし、そこに居たのはタクミでは無かった。
「やぁ、俺は"D級冒険者"のルーカス・B・チェイサー。早速だが連れ帰って来たコイツを頼むぜ」
ルーカスと名乗る冒険者の背中にはタクミが背負われていた。それもスライムの体液でヌメヌメになった状態で。
「嘘だろ、冗談のつもりだったんだが…本当に"落ちた"のか?」
まさか自分の冗談が現実になってしまったのか?と焦りと驚きが混じった表情をするガストン、その横でフェリスはルーカスから意識のないタクミの身体を受け渡された。
「身体が異常に冷てえ、早く熱い湯船につけてやってくれ」
ルーカスの言葉で我に返ったガストンは二人に指示を出した。
「ラナ!早く湯を沸かしてくれ!フェリス嬢はそのまま風呂場に運んでくれ」
◇◇◇
「そうか、タクミのやつ昇格はできたのか」
ガストンはタクミを連れ帰って来たD級冒険者のルーカスから事の些細を全て聞き、そしてホッと胸を撫で下ろした。
「そんじゃあ俺は帰るとするよ」
ガストンは役目を終えて帰ろうとするルーカスに何か礼をさせてくれと頼んだが、「あいつが起きたらよろしく伝えてくれ」と言って宿から立ち去られてしまった。
◇◇◇
俺はついさっきまで街の広場で審査を受けていたはず…なのに何故、俺は服を着たまま湯船に沈められている?
「あ、タクミ起きた…」
声と共に視界を塞ぐように上から顔が現れた。
「あれラナがいる…?」
湯船で溺れないようラナが一緒に湯船に浸かりながら後ろでタクミの頭を抱えていたのだ。
「タクミ、スライムでベトベトだから私が洗ってあげる」
「ほらバンザイして、服脱がせるから」
「あぁ、うん…」
体力的にも精神的にも疲労していたタクミは特に疑問にも思わず、ラナの言われるがままになっていた。
タクミが我に返るのはもう少し後になりそうだ。
その一方、風呂場までタクミを運んだフェリスは顔を赤くして外で座り込んでいた。
なんであの子は平気で男の人とお風呂に入れるの…!?
フェリスはこの世界で最もポピュラーな宗教『セイラル教』の敬虔な信徒として育てられた。
そのため異性との接触に対する免疫はあまりなく、同じ湯船に浸かるなんてもってのほかだった。
◇◇◇
その頃、冒険者ギルドでは首長が頭を抱えて悩んでいた、もちろんD級冒険者昇格審査の件についてである。
この度の昇格者はタクミとルーカスの二人だけだ、審査受験者が二十名以上いたにも関わらずに。
D級への昇格が二人しかいなかった審査など前代未聞だった。
その理不尽とも思えるような審査で昇格を逃した冒険者たちが怒りのクレームを入れに来ていたのだ。
ギルド職員はうなだれる首長に言った。
「やっぱり審査官を
「…そうじゃな」
ただ静かに首長は答えた。
第十七話 完
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