第16話
D級昇格審査当日の朝になった。
街にある大きな広場にて、審査を受ける冒険者達は集められた。
「けっこー昇格審査を受ける奴っているんだな」
辺りを見渡すと集合時間より少し早いにも関わらず、冒険者と思わしき人間がポツリポツリといた。
「うわ、あの冒険者とか凄っげぇデッカい斧持ってるし強そうだな、あっちの奴なんかピッカピカの高そうな鎧つけてるし…なんか自信なくなってきたよ」
【今日はやけにネガティブですね、普段はポジティブというか何も考えておられないのに】
モイカはいつもと様子の違うタクミに尋ねる。
「何も考えてないは言い過ぎだろ…」
そう言い返す言葉にもどこか力がこもっていない。
「今日は久しぶりに悪夢見てさ、朝起きたら汗びっしょり。こういう日は大抵良いことねえんだよなぁ」
【相当ダメージ喰らってますね、今日は大事な日なのに大丈夫ですか?】
「D級への昇格は余裕でした!ってフェリスは言ってたしまあ大丈夫だろ…」
◇◇◇
そして予定された時刻となった。広場には二十人を超えるE級冒険者達が集っている。
「なあアンタ、今回の審査官は誰か知ってるか?"A級"の誰かだって噂だけど」
横にいる冒険者に尋ねられたタクミは答えた。
「いや〜まったく分かんないな」
A級…俺の知ってる奴は1人しかいないけどまさかな。
もし、審査官が俺の思い描く人物ならば…
少なくとも審査官に向くような人物じゃないだろう。
そのとき突如として今まで考えていたことが軽くぶっ飛ぶような
ズズズズズズ—
なんだこれ、鳥肌が止まんねぇ。
そしてその圧力はどんどん強くなる。
広場にいる全員が理解した。圧倒的な"力"を持つ者が徐々に近づいており、その人物こそが審査官であると。
「おはよう、ヒヨッコ冒険者の皆さん」
尋常じゃない圧を発しながら現れたのは特徴的な赤い髪を後ろで結び、まるで傲慢と高飛車を体現したような表情をした人物だった。
「自己紹介するまでもないだろうけど一応言っておくわ、私は"A級"冒険者のルーシア・トリニティよ!」
やっぱりこの女だったのか…最悪だ。
「私は審査官なんてやりたくなかったんだけど、ギルド長に頼まれたから仕方なくって感じね」
ギルド長は何を考えているんだ???少し絡んだだけの俺でも分かる、アイツは審査官なんて向いてる人間じゃない。
「じゃあ早速だけど始めるわね、ルールは簡単!一分後に立っていられた奴は合格よ!」
ルーシアの放った言葉に頭の上で疑問符を浮かべる冒険者たち。そんな中で一人の男が口を開いた。
「オラ頭悪いからよくわかんね〜けどよぉ、アンタをぶっ倒せばこの場の全員合格ってことだど?」
そう言ってルーシアの元に詰め寄るのは広場に着いた時に見かけた、背に大きな斧を背負う男だった。
ルーシアは男に答える。
「半分正解ね」
「そして残りの半分は…貴方では力不足ってことよ!」
ズズズズズズァ—!!!
ルーシアは自身が有する強大な魔力を解放することで、先程よりもさらに強い
まるで生き物としての"格"が違うんじゃないかと思わされるような威圧感だ。
「オラが…!そんなバカなことはないど…!」
ルーシアから放たれる"圧"に耐えきれず、大きな斧を背負った男は自ら膝を折り曲げ地面に手をついた。
それにつられて周囲の冒険者達も屈服するかのように自ら地面に膝をつき始めた。
一方のタクミはというと、他の冒険者と同じように心の火が消されようとしていた。
しかし、それも無理はない。
タクミは今まで『魔力』が一切存在しない世界に居た。
そのため浴びせられる強大な魔力に対しての耐性と対策を持ち合わせていなかったからだ。
例えるならば、裸一貫で流氷が浮かぶ極寒の海に投げ出されるようなもの。
それでも未だに立っていられるのはタクミの持つ強靭な精神力によるものだ。しかしそれも長くはもたないだろう。
「おい…!"魔力を放出"して身を守れ!精神が壊されるぞ!!!」
タクミにそう指示するのは審査前に話しかけてきた男だ。
「魔力を、放出…それ、どうやってやるんだ—?」
『魔法』は精密な魔力操作を必要とする。そのため習得過程で魔力の操作が自然と身につくのだ。
しかし、天から与えられる『スキル』はそれを必要としない。
そのためタクミは魔力操作について理解が乏しいのだ。
「タクミ!早く負けを認めて楽になりなさいよ!あんた死んじゃうわよ!」
もはや意識が朦朧として、ルーシアの声も遠くに響く。
あぁ、寒い 寒いよ…あったかい毛布が欲しいなあ…
【タクミ様!スキルを、スキルを使ってください!】
モイカが叫ぶように言った。
スキル…スライムで何かできるのか?でもモイカが言うのなら…
「
ポンッ ポンッ ポンッ ポンッ
タクミは薄れゆく意識の中で貯蔵庫からスライムをありったけ引き出した。
そして身を守るという本能から無意識のうちに、30体を超えるスライムを全身に纏わりつかせた。
「なによそれ…スライムの鎧とでも言うわけ!?」
全身を隙間なく埋めたスライムがルーシアから放たれる魔力の圧を遮断することで、文字通りタクミを守る鎧となっていた。
◇◇◇
「おい、もう一分過ぎてるんじゃねーか…?」
タクミの横に立つ男が口を開いた。
悔しげな顔をしながらもルーシアは自らの魔力を抑えた。
「やっと、終わったのか?」
耐え切ったタクミは安堵すると地面に大の字で倒れ込んだ。
第十六話 完
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