第15話
「タクミ、お帰りなさい」
宿に戻った俺を出迎えるのはエプロン姿で宿の仕事を手伝う少女ラナだ。
「ただいま〜もうご飯できてる?」
「できてる、叔父さんはもう食べてます」
「"ところで"、その女の人は誰?」
ラナの鋭い視線がタクミの後ろにいるフェリスに注がれている。
「あぁ、この人は俺のパーティーメンバーだよ」
◇◇◇
食事の時間、俺の隣にはラナが座った。いつもと同じ席なのだが今日は"何故か"距離が近いがする。
ナイフを使うたびに動かす右腕がラナに当たって食べづらい。
「もうちょっと離れた方が食べやすくないか?」
「そんなことない、大丈夫」
そう言ってラナは指摘を意にも返さず食事を続ける。
「私、来ちゃダメな感じでした…?」
タクミと向かい合わせに座るフェリスはラナに恐る恐る尋ねた。
「ん、なんで?別にそんなことない。ご飯もっと食べて」
「そ、そう…じゃあ遠慮なく食べさせてもらおうかな…」
そう言ってフェリスは萎縮しつつも自分の皿に肉を移して食事を再開した。
「なんか面白そうな奴が来てるな」
食事部屋の奥にある厨房から現れたガストンは青髪の来客を見て言った。
「あぁ、俺のパーティーメンバーなんだ」
「初めまひへ!フェリスっへ言いまふ」
「食べ終わってからでいいぞ…?」
宿の主人が現れ、食べ物が口に入ったまま慌てて挨拶するフェリスに苦笑いしながら答えた。
「てかお前E級だろ、パーティ組むのは早くないか?」
「それは大丈夫、3日後にはD級に上がるからな」
あ〜半年に一度の昇格審査の時期か…
しかしこのタクミの余裕に満ちた発言、少しは気を引き締めさせた方がいいのだろう。
だが実際、D級くらいには軽々と昇格するだろうと感じたガストンは特に何も言わなかった。
「ところでそこの嬢ちゃんとパーティを組んだ目的とかってあるのか?」
「無論!俺がD級に上がったらダンジョン攻略だ!」
んな無茶な…
「いやそれは無茶だろ」
ガストンは心の声がそのまま口に出してしまった。
タクミはともかく青髪の嬢ちゃんを見る限り、ダンジョンの過酷な環境に耐えうるとは到底思えないが…
このように考えたガストンは彼女のパーティでの役割を考察した。
「嬢ちゃん、君のパーティでの役割は後衛だよな?魔法か弓を使うのか?」
しかし、フェリスから返ってきた言葉にガストンは度肝を抜かれることになる。
「いえ、私はタンクです!」
「嘘だろ?」
タンクは敵の攻撃を最前線でガッシリと受け止め後衛を守る、言うならばパーティの大盾だ。それを彼女が???
「…?本当ですよ?」
いやいや、彼女のランクはD級だ。おそらく自分の適正役職を知らないに違いない。初級の冒険者には良くあることだ。
「冗談言っちゃいけない、ちょっとおじさんと腕相撲してくれないか?」
ここは大人気ないが軽くひねって現実ってものを知ってもらおう。ダンジョンで大怪我してからでは遅いからな。
「いいですよ!いや〜腕相撲なんて久しぶりだなぁ」
そう言って自信ありげに腕を回すフェリス。
先程まで料理が乗っていたテーブルはすっかり片付けられて、腕相撲の舞台が整った。
手と手がガッシリと組み合う。いざ対決の時—
「二人とも怪我すんなよ〜」
掛けられたタクミの言葉にどこか引っかかるガストン。嬢ちゃんの心配をするのは分かるが何故俺の心配もしている…?
そんなガストンの思考もフェリスの掛け声と共に姿を消した。
「じゃあ行きますよ〜」
「よし来いッ!」
ドンッ—
その瞬間、右肩から下が消し飛んだかと思うほどの衝撃をガストンは体感した。
そして部屋中央のテーブルで腕相撲をしていた筈が、いつの間にか壁際まで吹っ飛ばされていた。
「え—?」
「ご、ごめんなさい!力の加減間違えちゃいました!」
慌てて謝るフェリス。
「いや大丈夫だ、なんともない」
そう言いながらも上げた右腕の感覚がおかしいことに気づいたガストン。右腕に視線をやると、肘から先が変な方向に曲がっていた。
「「「あ」」」
その場にいた一同全員、思わず息を呑んだ。
◇◇◇
「この間から災難続きだな〜ガストン」
そう言いながら回復スキルを持つスライムを
その様子を見てガストンは驚きながら尋ねてきた。
「おい、そのスライムはどっから出した???」
何処から…考えたことはなかったが、そう言われると自分でも
異空間的なとこに収納されているのだろうか?
「
とりあえず今分かっていることを答えると更にガストンは質問を続けた。
「他にもスライムはいるのか?酒場乱闘騒ぎの時に2体出しているのは見たが」
「うん、いるよ。あと40匹くらい」
それを聞いてガストンは唖然とした。
「でも他は大体雑魚スライムだぞ?」
そう事も無げに語るタクミ。
影も形もない場所から
そもそも『魔法』と『スキル』は全くの別物だ。スキルは天から与えられるもの、魔法と違って自力で手に入れられるものでは無い。
そのため物にもよるが、『スキル』はイカれた性能をしていることがある。
常識はずれの筋力を持つお嬢ちゃんと天与の『スキル』持ちのタクミ…全く面白いパーティになりそうだ。
と痛めた右腕を労わりながら二人の将来性を感じているガストンだった。
◇◇◇
D級冒険者昇格審査まで残り3日、冒険者ギルドの首長は頭を抱えていた。
D級の昇格審査は通常の場合、任命されたB級以上の冒険者が審査官を務める。
しかし今回、任命していたB級冒険者が音信不通となっていたのだ。
「う〜む…どうしたものかのぉ」
そこで一人のギルド職員が提案した。
「彼女なんてどうでしょう?"A級冒険者"の」
「あやつは、審査官には向かんと思うが…」
「でも昇格審査の日まで時間が無いですよ」
「そうじゃな…仕方がない、彼女に頼もう」
第十五話 完
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