第14話 もう止まらない
ダンジョン—それはこの世界に存在する地下迷宮のことである。
誰が、いつ、どのようにして創り上げたものか全く分からない。
ダンジョン内部には危険な地形と環境、そして闇に潜む魔物達が侵入者に牙を向く。しかし、それでも冒険者達は信頼する仲間と共に突き進む。
それは危険を差し引いてなお、余りある"宝"がそこに眠るからである。
「…っていうものなんです!」
食べ盛りの青髪D級冒険者娘からこのようにダンジョンについての詳しい説明を受けた。
「ふむ、なるほど…」
「そういや肝心な事を聞き忘れてたな」
「はい!なんでも聞いてください!」
「…君の名前は?自己紹介してなかったよな」
彼女のペースに乗せられてここまで来たが、お互いの名前すら知らないことに気がついた。
どんな質問が来るのかと待ち構えていた彼女は「え、このタイミングで…?」みたいな気の抜けた表情をした。
「だって必要だろ?パーティを組むなら」
俺はパーティを組む気なんてさらさら無かった。でもダンジョンについて熱く語る彼女の顔を見て考えは変わった。
この人とならパーティを組んでみてもいいかもしれないと。
「パーティ、組んでくれるんですか!?私の名前はフェリスって言います!」
「俺はタクミ、一緒にダンジョン攻略しようぜ!」
◇◇◇
ダンジョン攻略を目指してパーティを組み、意気揚々とギルドに向かったタクミとフェリス。
ダンジョン攻略申請?とやらをギルドに出す必要があるからだ。
しかし、ギルドで受付嬢のサーミャから放たれた一言、それは二人を絶望させるのに十分なものだった。
「ダメです」
どうやらダンジョンに入るには最低でもD級に到達していないといけないらしい。C級以上を推奨しているということだ。
D級のフェリスはともかく、E級の俺は論外だ。
「う〜ん、せっかくパーティ組んだのにどうするか…なあ、勝手にダンジョン入ったらダメか?」
「ダメに決まってるじゃないですか!そんなことしたら冒険者からお尋ね者に早変わりですよ!」
倫理観、道徳心に欠けたタクミの発言に注意するサーミャ。
ギルドが管理するダンジョンに許可を得ず侵入することは重罪になるらしい。
「サーミャさん何とかならないですかぁ〜?」
困り果てたフェリスはサーミャの足元に縋りついて尋ねる。
「そうだぜ、ダンジョン攻略という俺たちの"ユメ"はここで終わっちまうってのかよー!」
タクミも便乗してサーミャに食い下がった。
モイカは【ユメなんて大それたこと言ってますが、ついさっき決めた目標では?】というツッコミを入れようとしたが馬鹿らしくて辞めた。
「なぜお二人はそれほどまでダンジョンに入りたいんですか…普通の依頼をこなすというのも立派な冒険者としての役割ですよ?」
タクミに関してはついこないだまで薬草採取に精を出していた、それがこの数日でこの変わり具合だ。
そしてパーティメンバーのフェリスも安全を第一に心掛けている実直な冒険者だと思っていたのに。
もしやこの二人、引き合わせてはダメな人間だったんじゃ…と思えど、もう遅い。
無くしたのか、元々存在しなかったのかは分からないが、ブレーキを持たぬ低級冒険者同士でパーティの未来なんて想像したくもない。
「お二人とも今より経験を積んでからでいいじゃないですか、タクミさんもD級に昇格したらダンジョンに入れるんですし、あまり急がなくても…」
サーミャの発言を聞いて、タクミはふと思ったことをフェリスに尋ねる。
「"昇格"—?そういえばフェリスはD級だったよな、どうやってE級から上がったんだ?」
この瞬間、サーミャは言わずともよいことを口走ってしまったことに気がついた。
「あ〜それはですね、三ヶ月に一度ある『昇格審査』を受けたらいいんですよ!」
三ヶ月に一度か…そんな都合の良いことは無いと思うがダメ元で一応聞いてみた。
「サーミャさん、その昇格審査の日っていつかな?」
数秒の間を置いてサーミャが口を開く。
「—です」
「え?今なんて?」
声にならないような声を出したサーミャに聞き返す。
すると悔しげな表情をしてサーミャは言った。
「三日後です…」
マジかよ…すんげー幸運だなおい!
田舎で半日に一本しか来ない電車に奇跡的に乗れた、みたいな感じだ。
「ラッキーですね!タクミさんなら一発で昇格間違いなしです!」
「そうだな、んじゃまあD級に上がってダンジョン行くぞー!!!」
誰かこの二人を止めてくれと心から願う受付嬢をよそに、ますます盛り上がって行くこの二人。
冒険者ギルド受付嬢の立場としてこれほどまでに、冒険者の昇格に対して微妙な気持ちになったのは初めてだった。
第十四話 完
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