第11話 イザコザ、冒険者という生き物
ワイワイガヤガヤと大勢の話し声に食器やグラスがぶつかる心地よい音が響き渡り、この場所は大変な活気に満ちている。
「あんたは宿にいなくていいのかよ」
「大丈夫だ、店番はラナに任せてる」
既に顔を赤くしたガストン、やや呂律が回りきらぬ舌で答える。
「あ〜最近雇ったって言ってた女の子か」
ゴブリン討伐依頼から戻った後、俺はガストンに誘われて街の酒場に来ていた。
しかしこの酒場、客層は明らかに良くないのが見て取れる。それもそのはず、この酒場は夜に依頼を終えた冒険者達の溜まり場になっているからだ。
冒険者は職業柄からか、どうしても血の気が多い奴がいる。そのため高級な店では冒険者お断りにしているとこもあると聞いた。
「おいタクミ、お前酒もあんま飲まねえで飯ばっか頼みやがって」
「すまん、今日は肉食いそびれて腹が減っててさ」
文句を言われながらも悪びれることなく、酒場の店員に次の料理を注文する。
「そうかよ、じゃあ俺ぁ便所にでも行くとすっかな」
そう言ってガストンはふらふらと立ち上がるとトイレに向かった。
「あんな見た目して酒弱いんだよなガストンは…」
人でごった返したこの店、無事トイレに辿り着けるか心配していたが、その数秒後に到着した料理に全ての意識は奪われてしまった。
この店は飯のメニューが死ぬほど美味い、しかも今日はガストンの奢りだから尚更だ。
しばらくしてガストンはトイレ出てふらふら千鳥足で俺のいる席に向かってきた。
そのとき、もう飲み終えたのか出口に向かう冒険者のパーティーとガストンの進路が交錯した。
ドン
体格のいいガストンにぶつかった男は尻もちをつくようにこけた。
「すまんすまん、大丈夫か?」
ガストンはそう言ってその男に手を差し伸べた。しかし、差し出された手に応えることなく立ち上がり言い放った。
「死ね」
ボガンッッ
男が繰り出したフルスイングのパンチによってガストンは俺の席まで吹っ飛ばされて戻ってきた。
「おかえり」
「おう、タクミ…しかし痛ってえな、あの野郎は相当飲んでるみてえだな」
騒然とする酒場、夜も真夜中に差し掛かる頃、この店の熱気は最高潮になった。
「ケンカが始まったぞ!」
「宿屋のガストンと冒険者の喧嘩だ!」
「いいぞ、もっとやれ!!!」
流石の客層の悪さだ。全く、ガストンも鈍臭いよな—
そのときタクミは思わず絶句した。
「おい…俺のメシが…」
ガストンがテーブルに激突したことで飲み物が倒れて料理に注がれ、台無しになっていた。
今日はつくづく食事というものの運に見放されているらしい。
倒れたガストンの元に向かってくるバンダナを巻いた男。
元々の性格か、相当飲んでいるのか、それとも両方か、殴り飛ばした後も怒りが収まらないようだ。
しかし、この時の俺の怒りはこの男のそれより上回ってしまった。
「ふざけんじゃねぇ!!!」
ドゴンッ
気がつけば俺はバンダナの男に飛び蹴りをかましていた。
「飯を粗末にする奴が一番許せねえんだよ俺はよ!」
う'お'お'お'お'お'お'お'お'お'お'ッッ!!!!
タクミの乱入によって店は地響きのような歓声に包まれた。
◇◇◇
喧嘩は外でやれと酒場店主に追い出され、外の通りにはタクミとバンダナの男を囲うように人の輪ができた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスころす殺すッッ!!!」
「やってみろよバンダナ野郎…俺の待ち侘びたメインディッシュを返しやがれ!」
両者共に気合い十分といった具合、そんな中で観衆はどちらが喧嘩に勝つか賭けをし始めた。
「面白え!"薬草のやつ"に俺は手持ち全部賭けるぜ!」
「馬鹿か?相手が悪すぎる。あいつは最近勢いのあるC級パーティーの冒険者『泥手のライル』だぞ」
「あの北の迷宮攻略にも乗り出してるパーティーのか?」
「E級には厳しいぞこりゃ」
「馬鹿な冒険者が2人とも潰れてくれることを祈って共倒れに銀貨一枚」
賭けの割合は"泥手"の異名がつくライルに大きく偏った(タクミにも薬草関係の異名はついているが)。
こういった時に冒険者ランクは実力を表す分かりやすい指標になる。
「おい、お前パーティーメンバーだろ、
「ごめんねおじさん。ライルはああなったら私達でも止められないの」
ガストンはライルのパーティーメンバーに止めるよう頼んだが厳しいようだ。
ライルという冒険者は特段に血の気が多いようだ。それにしてもこんな血の気が多い奴は滅多にいない。
「タクミ!俺のことは気にしなくていい!飯も新しいの注文してやるから!」
次にガストンはタクミの説得に乗り出した。だがこちらも勢いづいたら止まらないタイプだと分かっている。
「誰かこいつらを止めてくれぇ〜」
すっかり酒の抜けたガストンは天を仰いだ。
するとその時、見物していた1人の男が言った。
「あいつ…"詠唱"してるぞ!喧嘩どころか本当に殺す気か!?」
"大地の老精よ 岩片集いて 風
『
ライルが突き上げた右手の上に、周囲の地面から巻き上げられた土砂によって作られた槍が現れた。
「あのバンダナ冒険者、中位の土魔法が使えたのか。あいつ終わったな」
そう観衆の誰かがボソッと呟いた一方、タクミの心中は呑気なものだった。
へぇ〜これが攻撃魔法ってやつか…当たればひとたまりも無いか?
そんな様子を見たC級冒険者ライルは声をかけた。
「死ぬ準備はできたかァ?今一撃で殺してやるから動くんじゃねーぞォ」
「てめぇのヘナい魔法なんかじゃ死なねえよ」
タクミはそう啖呵を切って
第十一話 完
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