第12話 シンプルに行こう

 「なんだそりゃァ?」


 タクミと相対する冒険者"泥手"のライルは目の前の光景に一瞬動きを止めた。


 あのE級、どこからスライムを出しやがった…


 「お前召喚士サモナーの類いか?いや違うなァ、召喚までのラグが短すぎる」


 若手ながらも実力と経験を持ったC級冒険者。しかし、怒りと大量のアルコールによって極度に低下したIQで弾き出された結論。


 それは至ってシンプルなものだった。


 まぁいいかァ!たかがスライム如き轢き潰してやれば!


 一方のタクミは…更にシンプルに考えていた。


 唯一、俺の手持ちで攻撃スキルを覚えている『アクアスライム』—こいつが俺の全てだ。


 「撃て、"ウォーターバレット"!」


 「喰らいやがれェ!」


 ほぼ同時に放たれる圧縮された水の弾丸と土岩で生成された槍、二人のちょうど中間で衝突し大きな音と土煙をあげた。


 「なんだあいつ…C級相手に互角だぞ!」

 「"泥手"も大したことないのか?」

 「あんなスライム見たことねえ」


 そんな声が観衆から上がった。


 「うるせェモブどもがッッ!どこが互角なんだよ」


 そう言ってライルは外野をギロリと睨みつけた。


 しかしライルの言っていることは間違ってはいない。


 ライルの使用する中位の土魔法『尖岩の飛槍ダンパランス』はアクアスライムの放つ『ウォーターバレット』の威力を上回っていた。

 

 ◇◇◇


 土煙が晴れると共に、ダラリと生暖かい液体が額に流れるのを感じた。


 「タクミ!大丈夫か!!!」


 心配するガストンの声が耳鳴りの中で聞こえてきた。


 撃ち負けたのか—、相殺しきれなかった相手の攻撃が頭に掠ったのだろう、軽く脳が揺れてる。


 「もうギブかァ?」


 そうニヤケ面で問いかけるライル。その言葉がぼやけた脳に再び闘争心を灯させた。


 『貯蔵ストック解放オープン


 貯蔵ストックから引き出したのは、もう一体の稀少レアスライムである『薬草ハーブスライム』だ。


 スライムを取り出してすぐ命令を下した。


 「使用しろ『ヒーリングスプラッシュ』だ」


 ブシャァ


 スライムから噴出した液体を頭から浴びた。するとみるみる内に痛みと出血が消え、思考がクリアになった。


 「器用だな、回復までこなすなんてよォ〜まあ次で確実に終わらせてやるけどなァ!」


 そう言ってライルは再び"詠唱"に入った。


 回復ヒールしたお陰か少し冷静になることができた、ワザの威力で負けていても打てる手段はまだある。


 「もう一回だ」


 ◇◇◇


 お互いは再び、撃ち合いの準備に入った。観衆は固唾かたずを飲んで見守る。



 しかし、第二射が放たれることはなかった。


 「おい!お前ら何やっているッッ!!!」

 「そこを動くなよッ!」


 喧嘩が行われている通りの奥から怒鳴り声が響き、そして取り囲んでいた観衆はざわつき始めた。


 「あ、まずい」

 「騒ぎすぎたので当然ですわね」

 「よし俺は逃げるとするか」


 奥から現れたのは、この街の治安を維持する衛兵達だった。おそらく近所の人間が通報を入れたのだろう。


 「チッ、厄介な奴らが来た。今日はお開きだ」


 ボンッ


 ライルは地面に手を当てると大量の砂煙が空中に舞い始めた。


 「なんだこれは!!!」


 生み出された煙幕によって衛兵が気を取られているうちに観衆達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 「おい、お前も早く逃げるぞ!」


 ガストンに手を引かれこの場をタクミは後にした。


 結果として謎のE級が名の知れたC級冒険者と引き分けたこの一戦は、彗星の如く現れたルーキーの噂としてちまたに広まった。


 ◇◇◇


 【タクミ様は本当に無茶というものがお好きなようですね】


 宿に戻った後、モイカに皮肉たっぷりな言葉を頂いた。


 「なんかあの時は変に熱くなりすぎたんだよな、てかモイカさんも止めてくれたらよかったんじゃ…」


 この間、やらかしそうになった時は止めてくれるようにお願いしていたのに。


 【私は何回も止めましたが聞こえていないようでしたよ。アルコールのせいでは?】


 そういうもんなのか…?確かにあの騒動のとき、モイカの声は全く聞こえなかったが。


 「でも…今日は楽しかったな」


 最後の方はガストンのことや、台無しにされた食事のことも忘れて夢中になっていた気がする。

 こんなに全力で遊んだのはいつ振りだろうか、いや遊びでは決してなかったが。


 そんな感じで今日の出来事に浸っていた時、モイカが一言発した。


 【今、楽しかったと言いましたか—?】


 しまった、まずい!


 今までに聞いたことのないモイカの声色を耳に入れたとき、自身の失言に気がついた。


 しかし時すでに遅し、この日は夜が明けるまで説教が続いた。



 第十二話 完



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