第10話 初戦闘、強力なスライム

 【何をそわそわしているんですか…】


 街を出て新たな依頼に向かう途中、どこか落ち着きのないことをモイカに指摘された。

 

 「仕方ないだろ、初めて薬草採取以外の依頼受けるんだぞ?最近はルーティンみたいになってたし、マンネリだったなぁぶっちゃけ…」


 しかし、そんな薬草依頼も俺にとっては意義あるものであった。


 俺は目的通りにスキルツリーを成長させて新たなスキルを解放し、そして2体の希少レアスライムの存在を把握できた。


 だが自身の成長によって、改めて気付かされた。


 「あの女ルーシアは桁が違うな…」


 今朝、ギルドで会ったルーシアと名乗るA級冒険者、正確にはもっと前に出会ってはいたが。


 【あの方の身体から発していた魔力を見るにタクミ様の魔力量の約10倍はありますね】


 繰り返し自分のスキルを使用すると徐々に、この世界に存在する"魔力"という物質を知覚することができた。

 俺の持つ『スキル』も魔力を消費して発動するからだろう。


 魔力を知覚してから道行く人間や冒険者達も観察していたが、ルーシアほど傑出した魔力を持つ者はいなかった。


 「この世界に来てから魔法なんて1、2回しか見たことねえけどアイツの使う魔法…見てみたいな」


 【喰らったらタクミ様は間違いなく死にますよ?】


 「いや、なんで俺が直接喰らう前提なんだよ…アイツと戦えってことか?」


 【タクミ様は無茶な事を好まれるので】


 モイカと共にこの世界に来て約3週間、いつのまにか俺の性格を把握し始めたらしい。


 「俺がやらかしそうになったら止めてくれよ…?」


 この世界では人はあっけなく死ぬ。特に冒険者ギルドでは週に一回は誰かが死んだという話を聞く。


 我ながらに思う。暴走しがちな俺は非常にマズいと。


 【そうですね、前世みたいな死に方をしたら大変ですからね】


 「はい…」


 ピンポイントに弱点をえぐられたタクミは過去を繰り返さぬようにしなければ…と強く感じた。


 ◇◇◇


 「さて、ここら辺で飯にするか!」


 場所についたタクミはおもむろに荷物を地面に広げた。


 「じゃじゃーん!」


 取り出したのは重量感のある肉の塊だった。


 赤みがかかった肉質が光を受けて艶やかに輝き、白い脂身は全体に薄く広がっている。もう焼いた時のことを想像して涎が止まらない。


 そしてわざわざ運んできた重たい調理道具も取り出して準備は完了だ。


 肉を焼き始めるとジュワっという音と共に香ばしい香りが立ち昇った。


 肉から溢れ出した脂が高温の鉄板に触れた瞬間煙となり、野外を吹き抜ける風によってどこまでも運ばれていく。


 「うむ、順調順調!いや、一応言っとくけどこれは仕事だからな…!」


 この様子を見て何かツッコマれそうだと感じたタクミは先にクギを刺した。

 

 【私は何も言っていませんけど。ただこんなに高い肉を買う必要は無いですよね?】


 「な、何をおっしゃいます…餌が良いほど釣れる魚もデカいって相場で決まってて—」


 ガサガサ…ガサガサ…


 噂をしていれば現れたようだ、今回の依頼の目標が。


 俺の半分ほどの背丈、緑色の肌、悪意に満ちた顔、この世界で『ゴブリン』と呼ばれる魔物だ。


 「1、2、3体よし、全部いるな」


 指を指して数を数え、目標の数が揃っていることを確認する。


 今回の依頼は駆除依頼。農家の畑周りに住み着いたゴブリンをどうにかして欲しいとのことだ。


 「おうおう、もう肉を奪いたくて待ちきれないのか?」


 肉の匂いを嗅いで今にも襲いかかって来そうなゴブリン達。


 本来、ゴブリンは10体以上の群れで生活をする。そのため目の前にいるゴブリン達は何らかの理由で群れを離れた"放浪ゴブリン"と呼ばれる存在だ。

 危険度は通常のゴブリンの群れから下がり、Eランクの俺でも依頼が受けられるDランクに認定されている。

 

 ゴブリン達はロクな食事をしていないのか痩せ細っている。


 「心苦しいがこっちも仕事だ、生きるためにはやるしかないよな」


 『スライム貯蔵ストック


 貯蔵したスライムの中から10体を選んでこの場に出現させた。その中の1体は希少レアスライムだ。


 ・『アクアスライム』Lv11

 ・HP86

 ・MP17

 ・所持スキル ウォーターバレット


 「撃て、"ウォーターバレット"だ」


 パシュッ—


 水鉄砲のような音と共に発射された水の弾丸は先頭にいたゴブリンの頭部に命中した。


 『ウォーターバレット』は木をえぐるほどの威力がある。そんなものが頭部に命中したとしたら…


 バタン


 頭に喰らったゴブリンはその場に崩れ落ちた。そして残りの2体は命の危機を感じて逃げ出そうとした。


 「ごめん、逃すわけにはいかないんだ」


 ベチャッ、ベチャッ


 貯蔵庫から取り出した他9体のスライム。いつの間にかゴブリン達の足元にとりつき、移動を不可能としていた。


 「"撃て"」


 タクミの命令によって再びスキルが放たれた。


 パシュッ— パシュッ—


 こうしてスライムを使った初戦闘は割とあっけなく終了した。


 そして戦闘後、アクアスライムのステータスを確認して気がついた。


 「レベルアップしてるな」


 ・『アクアスライム』Lv12

 ・HP90

 ・MP19

 ・所持スキル ウォーターバレット


 攻撃スキル持ちの希少レアスライム…はっきり言って想像以上の戦力だ。今後はどんどん討伐系の依頼を受けて育成していこう。


 ◇◇◇


 「依頼も終わったし昼飯食うか」


 そう言って気分を切り替え、焼いていた肉を確認した途端に絶句することになる。


 「真っ黒こげだ…」


 【放置していればそうなりますよ】



 第十話 完



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