第8話 新たな能力

 異世界に来て二十日。朝起きるといつものように薬草採取へと向かった。


 街を出るとすっかり歩き慣れた道を通り、薬草とスライムが取れる湖のほとりへと辿り着いた。


 しかし、今日はいつもと様子が違っていた。


 「初めて来た時より薬草がなんというか…その、"元気いっぱい"な感じがするな?」


 ワサワサと生命力たっぷりに辺り一面に広がる薬草達。


 いくら薬草の群生地といえど、取っても取り尽くせぬ密度で生えている。


 このようになった原因についてモイカは考察した。


 【タクミ様が周辺のスライムをほとんど支配テイムしてしまったのではありませんか?】


 「え、スライムとなんの関係が…あ—」


 モイカの一言で俺は依頼書に下の方に記載されていた一文を思い出した。


 『薬草の群生地には薬草を好物とするスライムが集まる』


 そうだった、すっかり忘れていたが薬草はスライムの大好物だ。


 だからこそスライムはこの場に集まっていたし、俺もスライムを支配テイムするためにこの依頼を受け続けていた。


 だが今は辺りを見渡してもスライムは一匹も見つからない。


 そう、薬草を食べるスライムを俺が取り尽くしてしまったから薬草がこんなに繁茂しているんだ。


 【しばらくは他の依頼を受けた方が良さそうですね】

 

 モイカの言う通りだ。スライムがいないのなら報酬の少ない薬草採取の依頼を受け続ける意味は無い。


 「ここに湧いて出るスライムで俺のスキルを成長させ、支配テイムしたスライムは魔石に変えて金も稼ぐという一石二鳥システムが…」


 【そんな上手い話はありませんよ】とモイカはキッパリ言い切った。


 そうだよなぁ…


 「まぁ心機一転、この依頼で成長した俺は別の依頼も受けてみるか!」


 【異世界ここに来てからずっとスライムを支配テイムしているだけでしたが成長とは?】


 「お前中々酷いこと言うよな…まあ目に見える成長はしてないけど」


 ◇◇◇


 支配テイムするスライムもいないので、とりあえず今日の依頼分の薬草を採取し終えたタクミはふと、が気になった。


 「そういや俺は今、スライムを何匹溜めてるんだっけ」


 今まで回収したスライムの数を把握しきれなくなった俺はモイカに尋ねてみた。


 【私も知りませんが一回全部"出して"みたらいいのでは?】


 「お、お前、簡単に言うけどなぁ…」


 俺は支配テイムしたスライムを全て、自分のに収納するという画期的な方法を用いている。

 しかしそれには欠点が一つある。


 それはスライムを方法である。


 う、うぷっ…おrrrr


 ◇◇◇


 はぁ、はぁ…


【…随分と時間がかかりましたね】


 冷ややかな口調でモイカは言う。


「嘔吐してるのと大差ないからな…こんな大量なスライ…うぷ…もっとマシな方法ないのかよ」


 口を拭いながら愚痴を吐く。


 【マシな方法と言われましても…このスキルを得たとして、スライムを飲み込んで溜めておく人はいないでしょうからね】


 【あ、】


 そのとき、タクミと会話をしていたモイカは驚いたような声を出した。



 成長の機会というものは、いつも突然訪れるものである。



 【タクミ様、新しいスキルが使用可能となりました】


 モイカはそう一言、タクミに告げた。


 ついに来たのか新しいスキル、唐突だな。とりあえず、そのスキルについて聞いてみるか…


 異世界生活は約二十日にして、ようやく念願の新スキルを手に入れた。


 しかし、俺はそのスキルの内容を聞いた途端に怒りが込み上げてきた。俺が得た新しいスキルの名前は…


『スライム貯蔵ストック


 そう、名前の通りに支配テイムしたスライムを貯めておけるスキルだ。


 「おいおいオイぃ?俺が死ぬ思いをしてスライムを飲み込んでたのに今更こんなスキルが???」


 【このスキルはタクミ様の経験によって発現したと思われます】


 「俺の経験によって?」


【はい、自身の体内にスライムを収納するという行為がこの新しいスキル発現の要因だと思われます】


 ふざけた行為…モイカの棘のある言葉には若干引っかかるが、それでも自分の行動が無駄ではなかったと知って安堵した。


 「ほんじゃ、早速このスキル使ってみるか!」


 地面にうごめく大量のスライムを前に右手を突き出す。


 初めて『スライム支配テイム』を使った時のように、俺は既にこのスキルの使い方を把握していた。


 『スライム貯蔵ストック


 そう唱えて新しいスキルを発動させた。


 右手はまるで掃除機のようにスライムを吸い込み始めた。右手というよりも厳密にはスライムは右手の前に開かれた異空間に消えている。


 十秒もかからずに全てのスライムを貯蔵ストックすることができた。


 そしてスキル『スライム貯蔵ストック』の素晴らしい機能に気がついた。

 貯蔵しているスライムの総数と個体情報を確認することが容易にできる点だ。


 スライム貯蔵ストック数・45体

 

 うわ、こんなにスライムを溜め込んでいたのか…

我ながらに少し引いた。


 手元に開いたパネルでさっそく貯蔵ストックを確認していた俺は見慣れぬ個体名を見つけた。


 「ん…なんだコイツ?」


 ・『薬草ハーブスライム』Lv16

 ・HP43

 ・MP24

 ・所持スキル ヒーリングスプラッシュ


 「いつの間にこんなスライムを支配テイムしていたんだ?それに普通のスライムと違ってLvレベルが高いぞ」


【転生して三日目からステータスを確認することなく回収していたので見落としたのでは?】


 そういやそうだった…見た目は変わらないのに、こんなレアキャラがいるなんて全く思わなかった。


 もしかして良質な魔石が取れたスライムってコイツみたいな希少レアスライムだったんじゃ…


 雑にスライムを間引いて魔石に変えていた俺は少し後悔した。

 そして他にも希少レアなスライムがいないか、パネルをスクロールして貯蔵ストックを確認した。するともう一体の希少レアスライムを発見した。


 ・『アクアスライム』Lv11

 ・HP86

 ・MP17

 ・所持スキル ウォーターバレット


 結果、新しいスキルによって43体の雑魚と2体の希少レアスライムがいることを把握した。


 「はやくこいつらのスキル使ってみてえなぁ〜」


 今までスキルを覚えているスライムはいなかった。そのため二種類のスライム、二つのスキルにはワクワクが止まらない。


 

  第八話 完


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