第7話 まるで錬金術?

 異世界に来てから十日が過ぎた。


 朝起きたら冒険者ギルドで薬草採取の依頼を受け、依頼分の薬草を取った後はひたすらスライムを支配テイム、日が暮れる頃には宿に戻るという生活を続けていた。


 毎日、宿代や食費と雑費などで銀貨を3〜4枚ほど消費している。

 しかし薬草採取の依頼で得られる報酬はたったの銀貨3枚。そのため手持ちは貯まらず減っていくばかり。


 そして今日、ついに財布には銅貨が数枚という悲惨な状況になってしまった。

 これでは肉串すら食べることができない…。


 「どうしてこんなことに…」


【タクミ様が余計な買い物をしているからでは?】


 モイカは嘆く俺にツッコミを入れる。


 とはいえ仕方がないのだ…この世界には前の世界には存在せぬ目新しい物だらけで俺の購買意欲を掻き立てるからだ。


 【"それ"もそそのかされてまんまと買わされていましたよね】


 こないだ露店の白ヒゲ生やした爺さんから買った大きなサボテンが部屋の隅に置かれている。


「この紫色のサボテンがまれにつけると言われる果実は昇天するほど美味いらしいからな」


 買ってから毎日水をやって世話しているが、一向に実が成る気配はない…

 

 【そのペンだっていりませんよね?】


 机の上に飾られた羽ペン…カミナリドリの羽が使われており、羽に付与されている魔法によって文字を書く速度が3倍以上に跳ね上がる。

  

 欠点としてはその速度に手が追いつかずマトモな字が書けないことだが…


 【ゴミばかりじゃないですか】


「…はい」

 

 無慈悲な正論、全くもって返す言葉がない。


 この救いようの無い金欠。どうしたものかと頭を抱えていたその時、部屋のタンスに保存しておいた物を思い出した。


 ガタガタッ!


 タンスを開くとその中には、紅く透き通った石がゴロゴロと転がっていた。


 そう、これは魔石である。


 俺は転生特典として特殊スキルツリー『スライム使いマスター』を解放した。


 しかし、その現状はスキル『スライム支配テイム』しか発現していない。

 そのため今はスキルツリー成長の為にひたすら多くのスライムを支配テイムしている。


 そんな中で適当に間引きしたスライムの一部個体から取れる魔石をなんとなく部屋に持ち帰っていたのだ。


 これ、何か宝石みたいだし…もしかして売れるんじゃないか…?


 貯めた魔石を全てリュックに詰め込むと思いつきのままに宿を出た。


 ◇◇◇


 「おはようございますタクミさん!今日も薬草依頼ですね!」


 冒険者ギルドの受付で明るく挨拶をするこの女性はサーミャさん。冒険者登録をした際の受付嬢もこの人だ。


 「いや、今日は相談があって」


「相談ならこの私、サーミャに何でも聞いてください!」


 受付嬢のサーミャは新人冒険者に頼られて凄く気合が入っている。


 「これどっかで売れるとこありません?」


 リュックから取り出した魔石をカウンターに乗せた。


 「ふむふむ、これは小振りですが良い魔石ですね〜」


 何処からか虫眼鏡を取り出したサーミャは俺の持ってきた魔石を観察して言う。


 「これなら商業ギルドで買い取ってもらえそうですね」


 魔石の他にも討伐した魔物の素材などは『商業ギルド』で買い取ってもらえるとサーミャが教えてくれた。


 「ありがとうサーミャさん!」


 礼を告げるとタクミは商業ギルドへと向かった。



 商業ギルドに到着するとカウンターにいた素材鑑定人であるギルド職員の爺さんに持ってきた14個の魔石を全て引き渡した。


 「少々お待ちください」


 そして、10分ほど待つと爺さんが鑑定結果を持って来た。


 「これでいかがでしょう?」そう言って魔石の評価額が記された紙を手渡された。


[魔石(粗悪) 10個→20銅貨]

[魔石(並) 3個→3銀貨]

[魔石(優) 1個→7銀貨]


 俺は魔石の相場なんて分からないが『商業ギルド』での買い取りならば、大きくぼったくるなんてこともないだろう。二つ返事で承諾した。


 結果として銅貨が20枚、そして銀貨が10枚の売り上げとなった。


 スライムから取れる魔石の大半は小遣い程度にしかならない物がほとんどだが、今回は運が良く良質な魔石が取れたので大きな売り上げとなった。


 ホクホク顔で街を歩くタクミは露天市場に立ち寄った。


 「いや〜、一気に財布が潤っちゃったなぁ…今日は贅沢しちゃおうかな?」


 【タクミ様…?】


「嘘です。すいません」


 よからぬ流れを察知したモイカに釘を刺されたタクミはすぐに口を閉じた。


 「でもこんなに稼げるならよ、これからも薬草採取しながらスライムを支配テイムし続けるだけで億万長者になれるんじゃねーか?」


 【そんな簡単に上手くいくとは思えませんが…】


 「大丈夫だって!とりあえず今日は奮発して特上の肉串を食べるぞ、それくらいはいいよな…?」


 【…】


 モイカの返事を聞くまでもなくタクミは宿屋の店主ガストンが営んでいる肉串の屋台に向かっていた。



 しかし翌日、モイカの言う通りにこの世界異世界はそれほど甘くはないことを思い知る。



 第七話 完



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