第6話 最高の組み合わせ

 扉を開けて建物の中に入るとそこは朝から多くの人で賑わっていた。


「すげぇ、いかにも冒険者!みたいな奴らがゾロゾロいるなぁ〜」


 ここに集う人間のほとんどは防具を身に付けて剣やメイス、弓に杖などの多種多様な武器を所持している。


 「そらそうだろ、冒険者ギルドに冒険者がいなくてどうするってんだ」


 新参者丸出しの俺に横からツッコミを入れるのは昨日泊まった宿屋の店主ガストンだ。


 この世界には『冒険者』という職業があることを稼ぎ口を探す俺に教えてくれた。


 冒険者の役割は野外での植物採集から商隊の護衛、魔物の討伐や迷宮攻略の依頼と様々さまざま


 しかし依頼を遂行する能力さえあれば人を選ばない。突如この世界に湧いて出た俺にとっては願ってもない職業だ。


 「ほら、はやく受付に行ってさっさと冒険者登録してこい」そう言ってガストンは俺の背中をドンと前に押した。


 「おはようございます!今日は何のご用件ですか?」


 押し出されるようにカウンターの前に出たタクミに金髪ショートの受付嬢が髪色よりも明るい笑顔で話しかける。


 「冒険者登録?っていうのをしたくて」


タクミが冒険者登録が目的であることを伝えると受付嬢は少し表情を歪めた後、受付の裏から何かを運んで来た。


 「よいしょっと、これ重いから嫌いなんですよね〜」

 

 受付嬢はカウンターの上へと運んできた重い荷物をドサッと乗せた。


 「なんですかこれ?手形のついた石板みたいな…」


 目の前に置かれた謎の物体…頭の中でハテナを浮かべていた俺にガストンが後ろから説明した。


 「そいつぁ個人の魔力を登録する装置だ、まあ手を乗せてみろ」


 言われるがまま2、3秒の間装置に手を乗せていると装置がパッと光った。そしてすぐに受付嬢から登録は終わったと伝えられた。


 なんか拍子抜けというか、あっさりだな…


 「あと、この紙に名前を書いてもらったら君は晴れて冒険者です!」

 

 受付時の言う通りに近くの羽ペンをとって【タクミ ツキヤ】と名前を記入した。


 その後、受付嬢から自分がれっきとした冒険者であることを示す冒険者証バッヂを貰った。


 この冒険者証を見せることで他の街のギルドでも依頼を受注することができるようになる。


 「タクミさんはE級ですので一つ上のDランクの依頼まで受けられます。ただ、依頼に失敗すると場合によっては違約金が発生するので注意してくださいね?」


 初級の冒険者は功を急いて難しい依頼を受注しがちらしい。


 「何事も積み重ねってことだな、うんうん」


 「最初はこれなんかどうだ?」とガストンが掲示板に貼られた一つの依頼を指差して言った。


  『E級 薬草採取』

・報酬 銀貨3枚

・推奨採取場 …

・〜

・〜


 この依頼はギルド公認の依頼だが報酬が少なく、初心者卒業した冒険者は受注しなくなるらしい。


 難易度は容易で初めての依頼としてはうってつけだと受付嬢も同意した。

 (ちなみに採取された薬草は冒険者ギルドが自ら回復ポーションに加工して安く冒険者に売っている)


 「う〜ん…俺はもっと楽しげでスリルがあるやつがいいのに、な—」


 物足りなさを感じながら勧められた依頼書を下まで読んで気がついた…


 これは自分にとって最高の依頼だということに。


 そしてこの選択によって、本来では考えられないほどに成長が加速する。



 ◇◇◇



  冒険者ギルドで依頼を受けた後、ガストンに用があるから一度宿に戻ってくれと言われ帰宅した。

 

「薬草取りとはいえ街の外に出るんだ、せめて護身用に持って行け。ずっと物置にしまってた物だからタダでいい」


 ガストンから手渡されたのは使い込まれた形跡のある短剣だった。物置にあったという割に刃は研がれており、しっかりと手入れされている印象を受けた。


 「あとこれも羽織はおっていけ、他の奴らにジロジロ見られるのもうざったいだろ」


そう言って投げ渡されたのは古びたローブだった。俺の服装がこの世界では浮いてしまっているからこれで隠せということだろう。服もそのうち買わなければ…


 「ガストンさん、ありが—


 感謝を伝えようとしたがガストンに止められた。


 「その程度のことで礼はいらん、無事に帰ってこいよ」


 昨日会ったばかりの自分にとても良くしてくれる…強面こわもてな風貌と裏腹にとても親切な人だ。


 頭が上がらないとはまさにこのことだな。


 「じゃあ行ってくる!」


 ガストンの見送りを受けて宿を出たタクミは依頼目的である薬草の採取場所を目指して歩き始めた。


 この街から2時間ほど歩いた場所にある小さな湖、そのほとりに野草の群生地があるらしい。


 そしてその場所には、自分がこの依頼を受けた1番の理由がある。


 ◇◇◇


 湖のほとりに到着すると一目で薬草の群生地は見つかった。


 そしてそこには自分のお目当てのヤツがいた。


 「うっひょお〜大量のスライムじゃねえか!」


 【どうやらそのようですね】


 パッと見ただけでも5〜6匹のスライムがピョンピョンと飛び跳ねている。


 スライムは薬草を大好物にしているらしく、薬草の群生地ともなれば…

 

 さらに最近この依頼を受ける人間が減っているため駆除する人間もおらず、この場のスライムは増殖傾向にあるらしい。


 依頼書の下部にはスライム注意と書かれていた。


 「よし、ここなら思う存分、自分のスキルについて調べることができるな…」


 タクミは初めてスライムと遭遇エンカした時にモイカが放った言葉を思い出していた。

 【スキルツリー『スライム使いマスター』をアンロックした】と。


 そう"スキルツリー"と言っていたのだ。


 つまり、現状で唯一のスキル『スライム支配テイム』以外にもスキルが発現する…もしくは能力の強化があると考えるのが自然だ。


 このスキルツリーを伸ばすための方法は…ひたすらスキルを使用することだろう。


 こうして今日から俺のスライム漬けの生活が始まった。


 ◇◇◇


 このスライム漬けの日々でまず分かったことは『スライム支配テイム』の射程距離だ。


 支配テイムは離れた距離からでは弾かれてしまう(最初の遭遇時のように)。そのため至近距離までスライムに近づく必要がある。


 まあ失敗したらめんどくさいのでスライムの体内に右手を突っ込んで直接スキルを放っている。


 体内から打ち込んだスキルの成功率は今のところ100%だ。


 そして街に帰る際に支配テイムしたスライムをどうする?という問題についても解決した。


 テイムしたと言っても魔物は魔物。街には連れて入れない。

 だが支配テイムしたスライムは俺にとって貴重な戦力だ、治安が良いとも言えない街では常に手元に置いておきたい。


 【タクミ様、それはあまりお勧め出来ません】


 モイカは俺が今からせんとしている行動を引き止める。


「モイカ知ってるか?人間の体のほとんどは水で構成されている、そしてスライムもほとんどが水。つまりそういうことだ」


 【いえ、その論理は破綻していますおやめくださ—】


 「南無三…っ!」


 ゴクンッ—!


 モイカの忠告も虚しく彼はそれを行動に移し、スライムはタクミの喉をツルリと通過した。


 つまりタクミは自らの体内にスライムを収納したのだ。


 1分ほど時間を置いたが特に身体に異変は現れなかった。


 「よし、なんともないな」


【…】


 スライム支配テイムは発動主が解除しない限りは決して効力が消えることはない。


 そのため体内でスライムに暴れられて大変なことになる心配はないのだが、それにしても大胆かつ無謀な行動にモイカは呆れていた。


 だがこの常識はずれな行動もまた、タクミの成長を加速させる要因の一つとなる。


 

  第六話 完



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