第3話 スライムテイマー

 「ちくしょ〜とんだ酷い目にあった…」


 タクミは全身に浴びたドロドロの粘液を地面に垂らしながら愚痴を吐く。



◇◇◇



 時は少し遡ってスキル発動時点…



 「スライム支配テイム!」

 

 タクミはスキル名を唱えた。すると右手が熱を持ち発光した。

 そして次の瞬間には手元から光の飛翔体ひしょうたいがスライムに向かって放たれた。

 

 しかし、放たれた光はスライムに弾かれて霧散してしまった。

 

 「支配テイムに失敗した!?」


 うわっ…!?


 失敗に落胆する暇もなく、次の瞬間には俺に向かってスライムが飛びかかって来るのが見えた。

 右手を突き出したマヌケで無防備な姿である俺にだ。


 このとき、身をもって魔物の危険性というものを思い知らされた。


 ベチャッ!


 音を立て俺の顔面を覆うようにスライムが張り付く。


 張り付いたスライムを引き剥がそうと試みるも、スライムの体のほとんどが水分で出来ているために指からすり抜ける。


 ごっ、ごばぁっ——息が出来ない…!


 スライムによって酸素を奪われ絶体絶命、窮地に追い込まれた。


 しかし、そんな中でも脳内では何故か冷静な思考ができていた。今思えば一度死んだことによって変な度胸が身についてしまったのかもしれない。


 スキルが弾かれるってなら…こうしてやる!


 スライムに手を突き刺した状態で再びスキルを発動、それも乱れ撃ちした。


 「ごぼごぼごぼごぼ(スライム支配テイム)!」

 「ごぼごぼごぼごぼ(スライム支配テイム)!」

 「ごぼごぼごぼごぼ(スライム支配テイム)!」


 スライムの内側から連発で喰らわせたスキルは前回発動時のように弾かれることは無かった。

 

 【テイム成功しました】


 その言葉が聞こえると俺の顔面にへばりついていたスライムは地面にボトリと落ちた。


 

 ◇◇◇



 「でスライムよ、お前に一体何ができるんだ?」


 転送からいきなりの死闘を終えてとりあえず息をつく為その場に座り込むと、目の前の支配テイムしたスライムに対し問いかけた。

 

 が、スライムはなんの動きもなかった。


 「答えるわけないよねぇ…ハハ…」

 

 自分のとった行動に思わず乾いた笑いが出た。


 どう見ても意思疎通できなさそうな魔物に話しかけるなんて俺は精神が疲労しているのか…?


 なんてネガティブになって考えていると頭の中に声が聞こえた。


 【支配テイムしたスライムには命令を出すことで様々な行動を強制させることができます】


 返答したのはスライムでは無く、先の戦闘でスキルのことを教えてくれた謎の声だった。


 「君は何者なにもんなんだ?頭の中に直接話しかけてくる感覚が未だに慣れないんだけど」


 【私はタクミ様のお助けをするように女神アノメ様から命を受けました。名は『モイカ』と申します】


 【私はこの世界で実体を持たない為、タクミ様の脳内に直接会話させていただいております】


 「じゃあ…その、モイカさん?早速聞きたいんだけどさ、最初の話では街の中に送られるはずだったよね?」


 一面に広がるのは緑!緑!緑!そう今、俺がいる場所は魔物スライムも現れる大草原。


 本来街に送られるはずだったのに、こんな草っ原でスライムに殺されかけた(スキルを試そうとした俺のせいでも少しあるな、うん)。

 一言、あの馬鹿女神に物申してやらないと気が済まない。


 【転送の際に何らかの問題が発生したと考えられます】


 モイカは不満気な俺に淡々と答える。


【世界間の移動は様々な要素が絡むため難度が非常に高く、アノメ様の力を持ってしても完璧という訳にはいかなかったようです】


 「そうだね、こんな大草原に1人ポツンとドッキリ番組みたいに取り残されるんだから間違いなく完璧ではないよね」


 【ただ…】


 【間違って海上や火山の火口、極寒の氷雪地帯に1人ポツンと転送されなかったのは幸運と言えますね】

 

 いやモイカさん?なんでいきなり怖いこと言うの…?


 もし仮にそんな状況になっていたらと思うとゾッとするな…

 女神アノメはあんな性格だし怒らせていたら、つい手元が狂って危険地帯に送られていたかも…


 今になって神の持つ理不尽な力の恐ろしさを思い知らされたタクミであった。


 ◇◇◇


 タクミが息をととのえて動き出そうとしたとき、再びモイカは口を開いた。


 【『スライム使いマスター』の能力で支配テイムしたスライムのステータスはいつでも確認できます】


 「なんだそれ…いよいよゲームみたいだな」


 モイカの言葉を受けたタクミは目の前の支配テイム済みスライムに向けて言葉を発した。


 「ステータスオープン」


 タクミの言葉に反応し、手元にスライムのステータスがしるされたウィンドウが開かれた。


 

 ・『スライム』Lv3

 ・HP12

 ・MP4

 ・所持スキル なし


 「なるほど、こんなゲーム画面みたいにスライムのステータスが確認できるのか」


 この世界のステータスの基準は全く知らない。それでも、このスライムは明らかに雑魚というのは分かる。

 流石は最序盤チュートリアルモンスターだ。1つもスキルを覚えてないし。


 まあ、こんなでも最悪はおとりにして逃げることはできるか…


 プルプルと地面で揺れるだけのスライムを見て少しの罪悪感を覚えながらも、やむを得ない場合には…と心の中で許しを願った。


 よし、じゃあ日が暮れる前に街を目指すか。


 ガサゴソと自分が持っている荷物を漁った。


 ズボンのポケットには女神からの餞別せんべつとして小さい地図とコンパス、そして少量の銭貨が入った皮袋があった。

 

 この時ほど地図とコンパスの使い方を探検家である父親から教わっていて良かったと感じたことはない。


 地図とコンパスを片手にタクミは立ち上がった。

 

 「よし行くぞ、"ついてこい"スライム!」


 俺の命令を受けたスライムは一歩後ろに追従している。


 こうして人間一人とスライム一匹、そしてお助けボイスのモイカと共に、本来送られるはずだった街を目指して異世界を歩き始めた。



 第三話 完


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