6.墨狩りのバッソ
16.蜂蜜ミルクあめ
暗い森のなか、真っ黒な人影が、高速でかけている。
ここ一か月くらいの、あいだに、たくさんの人が
あの時、つかまえられなかったのが、腹立たしく、悔しかった。
「うううう」
どこかから聞こえてきた、うめき声に、墨狩りは、はっとした。紙鉄砲をにぎりなおし、一気に加速する。低い木の茂みを飛びこえると、そこに何人もの少年が、たおれていた。
「これは……」
真っ赤な長い髪と、日によく焼けた肌から、〈
(まずい……!)
墨狩りは、お面のしたで、ぎゅっと眉をよせた。〈
墨狩りは、急いで少年たちのあいだをまわり、その背中で紙鉄砲を、ばあん! ばあん! と鳴らした。それから、彼らの口のなかに、特製の蜂蜜ミルクあめを、ぽんぽん、と放りこんでゆく。すると、苦しんでいた表情が、見るみる、おだやかになっていった。
ほっと一息ついてから、墨狩りは、木々をぬけて
「逃がしたか……!」
悔しさに、ぎりっと歯ぎしりを、していると、後ろから、足を引きずるような音が近づいてきた。ふり返ると、ひとりの少年が、痛めたらしい肩を、抱えて立っている。
「助けて、くれたの、あんたか」
「ああ。全員、無事か? 俺が助けたのは、十二人なんだが」
墨狩りがそう言うと、少年は苦しそうに顔をゆがめて、首を横にふった。
「ハムロが……ハムロが、いない。逃げて、崖から落ちたんだ」
墨狩りは、たたっと、かけて、崖のきわに、立った。
「高いな」
その言葉に、少年が泣きそうな顔になる。
「だが、下は川だ」
見おろす先には、幅の広い、そして深い川が流れている。
「見えるかぎりでは、それらしい人影は、ない。木の茂みを、クッションや手がかりにしながら落ちていけていたなら、うまく着水できているかも知れない」
墨狩りの言葉に、にわかに、少年の目に光がともる。
「ハムロは、ザイルの使いかたが、とにかくうまいんだ。うまく逃げられたかも……」
墨狩りは、うなずくと、少年の前にもどった。
「さっき食べさせたあめを、最後までなめられたら、お前たちは自分の集落へもどるんだ。ここからなら、半日くらいで帰れるだろう?」
「――ああ。あんた、〈
墨狩りは、こくりとうなずくと、「
「長老会は……動いてくれていたんだ」
ショックを受けたような顔をしている少年に、墨狩りは、うなずいてみせた。
「そのハムロというのは、俺が見つけてくる。お前は、ひとまず、このあめを集落にもちかえって、その娘に、なめさせてやってくれ」
墨狩りは、蜂蜜ミルクあめ入りのふくろを、少年の手にあずけた。
「五つも食べれば、落ちついて眠れるようになる。そのハムロというのを連れもどしたら、俺が紙鉄砲で、墨を抜いてやるから」
少年が「ありがとう」と頭をさげるのに、うなずいてから、墨狩りは「ああ、そのハムロというのは、どういう少年だ?」と問うた。
「髪を短くしている。ハムロは、怨墨に憑りつかれたマムロの兄だ。白い服の人が、〈
「なに?」
お面の下で険しい顔をしながら、だけれど、声はなるべくおさえて、墨狩りは少年のほうへ、ふり返った。
「あのニュース……まさか、お前たちが〈
「あの白い服の人からは、嘘の「匂い」は、しなかったんだ!」
悲鳴のような声で、さけぶ少年に、墨狩りは無言のまま、くちびるを引きむすんだ。しかし相手は〈
「――そんな、まさか……」
「必ず連れてもどる。全員バラバラにならないよう、すぐに集落へむかうんだ。いいな」
そう言うや、いなや、墨狩りは崖の上から、さっきのハムロのように空中へおどりでた。
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