15.これで、もう用は済んだ
***
しゅいん、という、たくさんの音とともに、森のなか、地面の上へ〈
「全員いるな。ケガをしたやつは、いないか?」
「大丈夫だ、ハムロ。みんな、無事だ」
年長の少年の言葉に、髪の短い少年――ハムロは「ほっ」と、安心の息をついた。
「ふぅ、それにしても、まさか追いかけてくるなんてなぁ」
別の少年が言うのに、ハムロは「いや、ぐうぜんだろう」と、かえした。
「あの女の「匂い」が、まさかって言ってた」
「そうだな、そんな「匂い」してた」
「うんうん」
仲間たちの言葉に、ハムロは、ほっとした。やっぱり〈
だまされるだけの、人間に、なるなんて、まっぴらだ。
そもそも、嘘なんかつく、やつらのことを、なぜ信じる。青年会のみんなが、勝手に都会へ出ていくなら、そうしたらいい。でも、〈
(そのせいで、マムロは――。)
悔しさで、ハムロは頭のなかが、ぐずぐずに、なってしまいそうだ。
マムロは、すっかり人が変わったように、なってしまった。皿をなげつけ、母さんをひっかき、大声でさけびながら、暴れるように、なってしまった。だから、後ろ手に縄でくくられて、舌をかまないように、口に白い布を巻かれて、地下室に閉じこめられている。妹の、かわいそうな姿を思いだし、ハムロはくちびるを、ぎゅっと、かみしめた。
マムロは、
〈
嘘をつき、つかれ、だまし、だまされ、怨み嫌い呪いかなしむ。そういった、黒い感情を生みだしやすい、たくさんの人間や〈
ハムロは、固くこぶしを、にぎりしめると、背中に背負った〈
「みんな、急ごう。約束の時間まで、あと少しだ」
ハムロの言葉を合図に、全員、また伸縮ザイルのフックを、木の高い枝へむけて投げて、飛びあがっていった。
目的の場所は、
月の光が、明るい。
そして、
かがやくほどに、真っ白い服を着た人だ。メガネをかけていて、髪型は、短い茶髪。にっこりと笑うと、その人は、両手を大きく左右に広げて、ハムロたちの到着を歓迎した。
「やあ、〈
「ここにある」
ハムロが、背負っていた〈
「さあ、早く渡して!」
白い服の人が、ひったくるようにして、ふくろをうばいとる。なかに手をつっこむと、もう用はなくなった、とばかりに、白いふくろを、
「ああああ、これだ。まちがいない、これだ。これこそが、真実の〈
「手に入れた……?」
ハムロの表情が、ぐっと、険しくなった。
「あんた、それで妹に憑りついた
白い服の人は、両手で大切そうに目の高さに、もちあげていた〈
「お前たち、よく働いてくれた。これで、もう用は済んだ」
次の瞬間、白い服の人の全身から、ぶわっと、すさまじい量の黒い煙が吹きあがった。
――いや、ちがう。これは
「どうして!」
「うわあっ」
「怨墨だ! 逃げろ!」
悲鳴をあげながら、さけび、逃げまどう〈
ハムロは、信じられないものを見ていた。どうして。嘘の「匂い」なんかしなかった。絶対、まちがいない。……でもだまされた。こいつに、だまされたんだ!
呆然とした、ハムロの目の前で、白い服の人が、「うふふふふふふ」と笑いながら、その手を大きく、ふりかぶる。はっと気づいて、ハムロはふり返り、かけだした。
後ろから、
「ちくしょおおおおおっ!」
ああ、満月が、ななめにかしいで、逃げてゆく。
そうして、ハムロは、
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