第12話

 翌日から、早朝に弟妹の魔法の練習を見学しながら、自分の体の中の魔力を感じる練習をして、朝食後に魔法石に込められる魔法の種類と使い方を学び、昼食までの間は毎日異なる魔法の課題を勉強という、午前中はずっと魔法の学習時間という感じになった。それだけこの国では魔法が重要で一番学ぶ必要があるものなのだろう。


 午後はフリーな時間が多いはずなんだけれど、弟妹に日本語を教えたり、城下町を案内してもらったり、この国のことを学んだりと、どんどんやることが増えていく。水の生活魔法が使えるようになったら、農業の方も本格的に始めていくとのことで、水魔法の練習も欠かせない。



「兄さん、これは僕の土魔法を込めた魔法石です。よかったら使ってください」


 朝食後、俺はセリウスから魔法石をもらった。


「この魔法石で何が出来るんだ?」

「その魔法石に魔力を注いだ後に土の上に置くと、周りの土を集めて小さなゴーレムができます。魔力を注いだ人がそのゴーレムに指示を出すと、魔力がなくなるまで草むしりをしてくれます。土魔法の熟練者になると、人よりも大きなゴーレムが扱えるようになりますが、僕はまだ手のひらの大きさぐらいのゴーレムしかできません。でも、草むしりが得意になる魔法陣を組み込むことが出来ましたので、母上は喜んで使ってくださっています」

「ミニゴーレム!?土魔法ってそんなことも出来るんだ……サンキュー、大切に使わせてもらう」


 見た目は少し黄土色がかったただの石だが、どこにそんな機能が隠されているのか、俺が魔法石を日の光が当たるように指で挟んで見ていると、視界に母さんが入ってきた。


「あら、ちょうどいいわ。向こうの畑に雑草が生えてきたから、ゴーレムに抜いてもらいましょう」


 母さんを先頭に4人で畑に向かう(護衛騎士は人数に入れるのやめた)。その畑にはナスっぽい植物が植えられていて、ちょうど雑草が生えてくる時期のようだ。


「この畑の雑草を全て抜いてくれると嬉しいわ」


 きっと母さんが管理している畑なんだろう、3人は魔法石を畑に投げ込むと、身長20cmぐらいのミニゴーレムが3体できあがり、それぞれの命令で草むしりを始めた。やばい、これ、かわいすぎる。


「そのゴーレム達、超かわいいんだけど!」

「何ギャルみたいなこと言ってんの。輝も早く魔法石に魔力を流して畑に投げなさい」


 母さんにバシッと背中を叩かれた。痛ぇ……


 俺が魔法石に魔力を流し始めると、どんどん吸い込んでいく感じがした。こんな小さい石なのに、見た目に反して結構魔力を溜め込めるだな。しばらく魔力を流していたが、流れが止まるのを感じたのでそこで止めて、魔法石を畑に投げ入れた。

 すると周りの土が石に集まりだして、あっという間にミニゴーレムができる。やっぱり超かわいい。


「ミニゴーレム、畑の草むしりを頼む」


 と俺が言うと、ミニゴーレムは俺を見て頷き、草むしりを始めた。ナスのような植物には目(?)もくれず、ひたすら雑草だけを抜いているのだが、根っこから綺麗に抜く姿などもとにかくかわいい。何このゴーレム、完全に癒やしじゃないか。土魔法、超うらやましい。


 ミニゴーレムは草をある程度抜くと、両手いっぱいに抱えて1箇所に集めていく。その草を抱えている姿もかわいくて、「これ、ずっと見ていられるわ~」と独り言を言っていた。俺以外の3人はミニゴーレムを完全放置で、畑の近くにあるガーデンテーブルセットの椅子に座って優雅にお茶を飲んでいる。


「お兄ちゃんもこちらでお茶にしませんか?」


 フロリアが俺に声を掛けてくれたけれど、ミニゴーレムを見ているのが楽しすぎて「しばらくミニゴーレムを観察してる!」と返事をして、そのまましばらくミニゴーレムの草むしりを眺めていた。


 ずっと眺めていると、ミニゴーレム達の草むしりの範囲が重ならないように、4体が異なる範囲の草むしりをしていることに気付いた。魔法陣とやらで制御しているのかどうか知らないが、なかなか賢い。そしてかわいい。


 ほぼ草むしりが完了したところで、3人のミニゴーレム達が畑の隅っこで魔法石に戻り、遅れて俺のミニゴーレムも畑の隅っこまで走ると魔法石に戻った。


「いやぁ、あれはマジでかわいいわ。頑張って草むしりをしている姿に思わず手伝いたくなった」

「えっ?ただゴーレムが草むしりをしているだけですよ?」

「ええ。土の人形が草むしりをしている姿にかわいさを感じるのは、お母様とお兄ちゃんぐらいではないでしょうか」


 2人の態度に俺がショックを受けていると、「日本人と感性が違うのよ」と、母さんに肩をポンっと軽く叩かれた。そのときふと、母さんも同じ経験あるんだと思った。



 それから、ミニゴーレム達がそれぞれ集めた雑草を麻袋に入れていき、畑の草むしり作業は完了した。日本でも草むしりロボットとかいれば、じいちゃんばあちゃんが腰を痛めることも少なくなりそうなんだけど、ロボットだと雑草と食用の植物との区別がつかなくて全部抜いてしまいそうだな……



◇◇◇◇


 昼食をみんなで食べた後、午後はフリーだったので、いよいよプランターにミニトマトと二十日大根の種を植えることにした。


 家の中からプランターを2つ出してきて土を入れ、家の前の日当たりの良さそうな場所に置いた後、片方のプランターにはミニトマト、もう片方には二十日大根の種を植えた。そしていよいよ水やりだ。

 じょうろに俺の水魔法で水を入れて水やりをするのが一番手っ取り早いのだが、魔法の精度を上げていくために、俺の水魔法で直接プランターに水やりをしていく。プランター全体に均一になるよう、そして水を与えすぎないよう、魔力をコントロールしながらゆっくり水を与えていく。


「……できた」


 俺の水魔法で、ミニトマトのプランターへの水やりが無事に成功した。これはうれしい。でも、まだ魔法を使い慣れていないからなのか、ものすごく集中したせいで思いっきり疲れてしまった。魔力は全然残ってるのだが、体力がすり減っている感じ?なんだろうか。


 俺は休憩がてら魔法石の本を手に取り読み始める。土魔法のゴーレムのような魔法が水魔法にもあればいいなと淡い期待を持っていたのだが、それらしき魔法は見当たらない。『水玉』という、水をボールのように丸くして怪我をした患部を包み込んで治すという水魔法があったが、患部を捜し当てて治療を始める動きがどうも想像できない。


 ただ、使えたら役に立つ魔法ではあるので、そのうち覚えようとは思う。


 休憩後、今度は二十日大根のプランターの水やりをしていく。さっきと同じ要領で、均一に適量の水を与えるよう、魔力をコントロールする。慣れればどうってことないって母さんが言っていたけど、慣れるまでにまだ時間はかかりそうだ。


「……ふぅ」


 何とか二十日大根のプランターにも上手く水やりができた。


 母さんは言わないけど、日本からの転生者は皆、魔力のコントロールに苦労したという噂は本当なんだろうな。あー、早く使いこなしてぇ~

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