第11話
"チリンチリーン"
玄関の鈴の音で目が覚めた俺は、慌てて玄関のドアを開けると、ノルベールさんともう一人の騎士が大量の食材などを持って立っていた。
「おはようございます。寝坊してしまいました。申し訳ないです」
昨夜遅くまで魔力を感じる練習をしていたためか、随分と寝坊をしていたようだ。
「おはよう、よく眠れたようだな。食材と王妃様から頼まれた物を持ってきた」
「ありがとうございます。母さんからは何を?」
「プランターとミニトマトの種だ。水魔法の練習がてらハツカダイコンとミニトマトを育ててみてはどうかということだ」
二十日大根とミニトマトの水やりに水魔法を使えってことだろうか?確かに水の与えすぎは腐らせる原因になるし、水魔法で水の与える量を調節出来るぐらい練習しろってことかもしれない。
「プランター用の土はどこで調達したら良いでしょうか?」
「この家の前の畑の土を好きに使っていいとのことだ。土にこだわりたいのであれば、セリウス王子に協力を仰ぐよう王妃様から仰せつかっている」
「わかりました。ありがとうございます」
王子であるセリウスをそんな風に使ってしまっていいのかどうかわからないが、とりあえずは家の前にある何も植えられていない畑の土が使えるか確認しないとだな。
ノルベールさん達が置いていった食材を、パントリーと保冷庫にしまっていく。パントリーの一部分はアイテムボックスと同じように時間が経過しないようになっているが、これも定期的に魔力を補充?する必要があるらしい。保冷庫の保冷機能は、凍らせる魔法を込めた水魔法石を使っているとのこと。水魔法の魔法書に氷魔法のページもあったから、練習すれば俺も使えるようになるんだろうか。食材は見たことのあるものもないものもあるが、食材に付せんが貼られていて、名前と味がわかるようになっていた。こういうのはすごく助かる。
食材の中にはすぐに食べられるパンやパウンドケーキみたいなものもあったので、朝食はチーズがが乗ったパンと黄色いキャベツを千切りにしたサラダを食べることにした。この世界ではキャベツっぽい野菜のことをキャヴァリスと言って、黄色いけれど鮮度が落ちて黄色くなったわけではなく、最初から黄色い野菜と付せんに書いてあった。味はキャベツとほとんど変わらない。チーズパンも普通に旨かった。
俺は母さんが用意してくれた服に着替えて、プランターに土を入れることにした。今日のTシャツは前側に”カツ丼”と日本語で書いてある。ダサすぎるが貴族の窮屈そうな服装よりはマシかと思うことにした。日本にいたら絶対に着ない……
プランターは全部で5つあったので、そのうちの1つを持って外に出て、家の前の畑の土を入れてみることにした。畑には何も植えられてはいないが、いつでも使えるようにちゃんと耕されていて、雑草なども生えていない。誰かが手入れしているんだろうなぁと思いながら、俺はプランターに土を入れていく。
「これぐらいでいいか」
水魔法の練習をする準備が出来たので、俺は早速プランターの上から水を降らせるようイメージをしてみると、ポツポツを小雨が降るような感じで水が落ちてきた。でも、量が少ない上にプランターよりもかなり広範囲で水が落ちてきため、範囲の制御等が出来ていないっぽい。
まずは、水を降らす範囲が自分で制御できる練習から始めることにした。狭範囲で水を降らせるには、空中にある水蒸気を急激に冷やして水滴化して降らせるのだが、魔力を上手くコントロールしないと、氷の粒が落ちてきたり一箇所にざばーっと水が降ってきたりすることもわかった。
「魔力のコントロールが難しいけど、水を操れているようで面白ぇ」
俺は、この水魔法が自分の魔力を使いながら自然と一体化しているような感じがして、元の世界にいる時には気付きもしなかった、自然と協力する大切さを少し学んだ気がした。
◇◇◇◇
プランターの土に水を降らす魔法を何度も繰り返していると、プランター内の土がびしょびしょになってきたので、今度は土から水を抜いてみることにした。土の中の水分を感じながら下に押し流す感じでイメージしていると、水だけが流れ出ていったが、今度は土がカラカラになってしまった。この調節もかなり難しいなと思っていると、お城の方から「にいさーん」という声が聞こえてきた。
「おう、遊びに来たのか?」
俺が大きな声でそう答えると、フロリアとセリウスがこちらに走ってきた。後ろには護衛騎士も付いてきている。
「兄さん、水魔法の練習をしているのですか?僕達も見学して良いでしょうか?」
「いいけど、面白いものでもないと思うぞ。魔法なんて初めて使うし、全然制御できてない」
「私達は水魔法が使えないので水魔法を使うところを見てみたいのです」
セリウスもフロリアもワクワクした目で俺のことを見ているが、俺は魔法初心者だ、あまり期待しないでくれ。
とりあえずさっきまで練習していた水を降らす魔法と水を流す魔法を繰り返しやっていくと、二人は楽しそうに見ている。
「兄さんは本を見ただけでそこまで出来るようになったのですか?」
「そうだな。【水】魔法書の本を貰っただけで特に誰かが教えてくれた訳じゃない」
「生活魔法でも、本を見ただけでこんなにすぐに使えるようになるのはすごいと思います。お母様は初めからそれをわかっていらしたのかもしれませんね」
「教えるのが面倒くさかっただけな気もするけどな」
「正直、その可能性もあると思います。ただ父上も母上も僕達も水魔法が使えないので、うまく教えられないかもしれませんが……」
あ、やっぱりそうなのか。できれば水魔法が使える人に教えて貰いたいと思うが、身近にいないならまずは本を読んで出来るだけのことはやってみるしかないな。
「水分量を調節しながら水やりができれば、お母様が仰った通り、お兄ちゃんの水魔法と、私の火魔法と風魔法、セリウスの土魔法を使って、プランターの野菜が一日で収穫出来ることも可能になりそうですね」
なるほど、フロリアとセリウスの魔法も使ってプランターの野菜を育ててみるのも面白そうだなって、一日で収穫!?
「一日で収穫出来るようになるのか!?」
俺は驚いて聞き返してしまったが、驚いているのは俺だけだ。
「もしかしたらそれが可能かもしれないって、思ったのです。実際に試してみないとわかりませんが、やってみる価値はあると思います」
すげぇ…ものすごくそれを試したい。でも俺の未熟な水魔法で果たして上手くいくのだろうか……
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