第10話
魔法測定と水魔法についての説明を受けた後、母さんが公務の時間が近付いたということで、今日はこれで解散となった。
「輝、家に戻る前に少しだけ私の部屋に寄ってもらえる?渡したいものがあるの」
と我に返った母さんに言われて部屋に寄ると、1冊の本を渡された。
「これは日本人向けに作られた水魔法専門の魔法書よ。各属性分あるのだけど、この本を渡しておくと日本人は3日で初歩的な魔法を覚えてくれるから説明が省けるということで、例に漏れず輝にも渡しておくわね」
「親切なのか手抜きなのかよくわからないな」
俺は苦笑しながらその本を受け取る。
「でも、その本が手元にあるおかげで、いつでも魔法の練習が出来るから、私はとても助かったわ」
「ふぅーん、とりあえず俺も読んでみるよ」
「ええ、絶対感動するから楽しみにしてて」
城内で母さんと別れた俺は家へ戻ると、早速【水】魔法書を読み始めた。何か目標物に向かって水を噴射したり、魔力量にもよるけれど広範囲に水を振らせたり、霧を出したり、結構面白そうである。
「でも初めはちゃんと体の中に魔力が流れていることを感じないと上手くいかないっぽいな」
こういうのは基礎が大事だ。俺は自分の体の中にある魔力を感じるところから練習を始めることにした。ソファの上であぐらをかいて目を瞑り集中する。すると血液と一緒に魔力が流れているような感じがし始めた。そのまま魔力が全身を巡っているのを感じてみる。体もポカポカしてきて、何だか不思議な感覚だ。
「異世界に転移するだけで、今まで持っていなかった魔力が普通に体の中で感じられるようになるなんて、どういう原理なんだろう?」
「そういえば、母さんは何で俺が水魔法が使えると知って、あんなに狂喜乱舞したんだろう?」
たまに独り言を言いながら、俺は魔力の流れを感じ続ける。魔力の流れを感じるだけなんだけど、気持ちも落ち着ける感じがしてずっと続けていられるなぁと思っていたら、"チリンチリーン"と玄関の鈴が鳴る音がした。俺は慌てて玄関に向かう。
「ヒカリ、夕食の準備が整ったので呼びに来た」
俺がこの世界に来て最初に出会ったノルベールさんが呼びに来てくれた。俺は慌てて城へ行く準備をして、ノルベールさんと一緒にお城へ向かった。
「少しはこっちの世界に慣れたかい?」
「生活様式が異なるのでまだ戸惑うことも多いです」
「ニホンには、魔法がなくてデンキで色々賄っていたと聞いている。デンキはこの世界にないので、慣れないのも仕方がない」
「そうですね。でも、魔法が使えるのはとても楽しみなんです」
「そうか。俺で良ければいつでも相談に乗るから、困ったことがあったら言ってくれ」
「ありがとうございます」
ノルベールさんは王城騎士団所属の騎士なので、本当に色々と知っていそうだ。それに初めから俺に優しくしてくれて、本当に感謝している。今日あったことなどを話しているうちに食堂に到着をすると、「王妃様の家に戻る時に付き添うのでまた後で」と言って、ノルベールさんはどこかへ行ってしまった。
今日も王族一家の皆様と夕食を一緒に摂ることになったのだけど、雰囲気がまだ慣れない。正式名称かわからないけれど、『王妃様の家』にはキッチンもあるので、材料さえ調達出来れば自炊することを伝えようと思った。
俺のために用意された席に座り、全員が揃うのを待って食べ始める。やっぱり王様と一緒に食事をするのは落ち着かない。
「魔法書でわからないことなどはありましたか?」
母さんが料理を食しながら俺に聞いてきた。
「まだ全部読んだわけじゃないですが、魔法を使ったことがない人向けにわかりやすく書いてあるので、本の通りやれば大丈夫そうです」
「そう、よかったわ。明日は1日フリーにするから、魔法書を読んで魔法の勉強をするといいわ」
「ありがとうございます」
明日は1日中フリーか、それなら食材のことも聞いてみよう。
「あの……明日から家で自炊をしようと思うので、食材を分けてほしいのですが……」
「食材を分けるのは構わないですが、私達と一緒に食事をするのは気が引けますか?」
さすが母さん、ずばっと聞いてきた。別の意味で、ちょっと引いた。
「そ、そういうわけではないのですが、こちらの世界の食材を使って自分でも料理をしたいと思ったので……」
とりあえず、印象が悪くならないように考えて言ってみた。自炊したいのは嘘じゃないしと、心の中でいいわけをする。
「ならば、週に2回は我々と一緒に夕食を摂るということでどうだ?」
王様が俺の顔を見ながら仰った。さすがに王様の発言は断りにくい。
王様には返事を待たせるのも良くないのかもと思って、早く返事をしなければと焦りそうになったけれど……こちらの世界も1週間は7日間なので、週2回ぐらいならまぁいいかと思うことにした。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。それでお願いできればと思います」
これが敬語なのかどうかも怪しいが、一応丁寧に答えてみた。王様との会話が一番緊張する。
「では、明日にでも食材は届けさせますね。色々食してみて、お気に入りの食材を見つけるのも良いと思います」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
どんな食材があるんだろう、俺が見たこともないようなものもあるのかなぁ。実家が農家なので、知らない食材には興味がある。これは楽しみだ。
食事が終わった後は弟妹達と少し雑談をして、ノルベールさんの付き添いで家に戻った。
「そうだ、これを渡しておく。これは、お城の者より預かったお湯を沸かすための火魔法石で、風呂に水を張った後、この石に魔力を流して風呂に入れると、石の熱でお湯になる。ある程度温かくなったら、風呂から出さないと火傷する恐れもあるから気をつけて使うように」
俺は、ノルベールさんから火魔法石を受け取り、石を観察しながら質問してみた。
「この石の効果?を止めたい時はどうしたらいいですか?」
「石の中を巡る魔力の流れを止めればいいのだが、それが出来るようになるのは少し時間がかかるだろうから、しばらくの間、お湯が温まったら挟み棒で石を掴んで取り出し、風呂に設置されている石を置く台に置いて、魔力がなくなるのを待つしかないな」
「なるほど……面白いですね!」
と俺が言うと、ノルベールさんは苦笑いしながら「君は王妃様に似ているな」と言った。俺と母さん、似ているところなんてあったかな…?
「では、俺はこれで失礼する」
「はい、ありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ」
俺はノルベールさんを見送った後、早速お風呂に水を貯めて火魔法石に魔力を流し、お風呂に入れて、水が温まるのを観察していると、水から湯気が出てきたので手を入れて熱さを確認する。
「ちょうどいい感じかな?」
石を置く台の横に掛けられていた挟み棒を使って石を掴んで風呂から取り出し、台に乗せる。石から結構な熱を感じるので、素手で触っちゃダメっていうのがよくわかった。そういえばこの家の本棚に魔法石についての本もあったから、今度読んでみよう。
風呂のお湯を桶に汲んで体を洗い、湯船に浸かる。はぁ~、やっぱりお風呂はいいよなぁ。石の魔力が切れなければ追い焚きっぽいことも出来るだろうし、魔法石を使って面白いこともできそうだ。
俺の水魔法と聖魔法がどんな風に使えるのかも楽しみだし、この世界でもやっていけそうな気がしてきた。
……あれ?そういえば聖魔法の魔法書を貰ってないな。今度聞いてみるか。
お風呂から出た後は、【水】魔法書の続きを読みながら、もう一度体の中の魔力を感じるところから始めた。魔法石に魔力を通す時とか、色々使う場面は多そうなので、まずはこれをマスターすることにしよう。
俺は灯りの魔力が切れるまで、魔力を感じる練習を続けた。
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