第6話

 今度は俺のスマホに保存されている写真を母さんに見せた。


「昇、結婚したのかい!?」

「あ、うん。かわいい娘もいるんだ。俺もおじさんだ、呼ばせないけどな」


 昇兄とは呼んでいるが、実際には母さんの弟だ。


「うわぁ、会いたかったなぁ」


 母さんは、俺のスマホの中のじいちゃんやばあちゃん、昇兄の写真を懐かしそうに見ている。


「みんな元気そうでよかった・・・ねぇ、この写真私のスマホに転送できない?」


 母さんが俺に古いスマホを渡してきた。型は古いけど、保存状態はすごくいい。


「うーん、もう少し新しければ転送も可能だったと思うけど、母さんのスマホは OS が古すぎて無理っぽいね」

「そうなのかい、残念・・・」


 凄く残念そうにしている母親を見て、スマホプリンタを持ち歩いていなかったことに少し後悔をした。そんなやり取りをしているうちに俺の警戒心も解けていき、すごい近距離で一つのスマホ画面を二人で眺めていた。


「やっぱり、ラノベとかみたいに異世界転生者だから王妃になったの?」

「うーん、それも少しはあるかもしれないけど、実はこの世界に転移した人ってほとんどが40歳以上なのよ。20代で転移したのは私が初めてだし、10代で転移したのも輝が初めて」

「何それ、何者かが転移させたい人を選んで転移させている感があって怖い」

「そうだね。きっと何かしらの理由はあるとは思うけど、まだ誰も転移した理由に辿り着けた人はいないの」


 もし、元いた世界の技術をこの世界に伝えるためだとしたら、学校の成績はいたって普通の15歳の俺が転移した理由にはならないし、何だかよくわからない。


「この国の王様は嫁さん何人いるの?王族って一夫多妻のイメージだけど」

「私一人よ」

「妾もいないの?」

「・・・言い方(笑)」

「じゃあ、王様と母さんの間に子供はいるの?」

「えぇ、3人いるわ。10歳の女の子と8歳の男の子と0歳の女の子」


 異世界に来ていろんなことに驚いていたが、これもかなりビックリな情報だ。未婚で俺を産んだ母親、異世界で王様と結婚して3人の子持ちになってた。しかも末っ子が0歳って最近産んだばかりじゃないか。


「みんな良い子だから仲良くしてやってね」

「王様の子供ってことは、王女様と王子様だろ?半分血がつながっているとはいえ、どう対応したらいいかわかんないんだけど」

「そうねぇ、一応ラディに確認しておくわ」

「へぇ~、王様のこと、ラディって呼んでるんだ」

「だって、様を付けると怒るんだもの。まぁ、ラディのおかげで、私が今こうしていられるって感じかな」

「例えば、そのTシャツとゆるパンでも許されるみたいな?」

「それだけじゃないよ。例えば、王族の教育について、母親がほとんど子育てをさせてもらえなかった風習を変えたり、役に立たない横柄な貴族を一掃したり、一般家庭にも家庭菜園のやり方を教えるルートを作ったり、お城の敷地に畑を作ったりとかね」

「王様、母さんのために、やりたい放題のような気が・・・」

「ラディの愛情よ。でも、一番凄かったのは、悪しき風習を一掃するって、前王・・・自分の父親を退位させて自分が王に即位したことかも?」


と、平然と言えるの、すげえな。


「じゃあ、大分暮らしやすくなったんだ?」

「そうだね、この10年でかなり改善されたわ」


 それから、このお城について、地図?を見ながら入っては行けない場所などの説明をしてもらったり、食事についての説明をしてもらった。


「ねぇ、輝さえ良ければなんだけど、お城の畑の管理を一緒にやってみない?」


 畑・・・の言葉で思い出した。


「そうだ。さっきのじいさんに振り回されたくなかったから言わなかったんだけど、リュックの中に、うちのお米の種もみも入ってるんだ。あと、てん菜の種と小学校の自由研究用にあげようと思った二十日大根の種も入ってる」

「な、な、な、なんだってーーーーーー!?」


 母さんが俺のリュックを奪って中身を確認する。


「うわっ、マジだ。うわっ、マジだ。飯、飯が食べられるーーーーーっ」


 俺の顔とリュックの中を交互に何度も見ている。言葉遣いもさっきより悪くなった(笑)


「母さん、落ち着けよ!!それは栽培用の種もみだから、すぐには食べられないよ。それに水田だって準備するのに時間がかかるんじゃないのか?」

「大丈夫!いつでも米栽培が始められるように健夫さんと準備してきたから!後足りないものは種もみだけだったんだよ」


 それが一番重要なものだと思うのだが。


「やばい、異世界に来て今一番興奮してる。マジヤバい。嬉しすぎ。あんたマジすごいべさ!」


・・・もしかして、俺に会えたことより嬉しいのか?それはそれで複雑だ。


 母さんはリュックを持ちながら変な踊りをし始め、ひとしきり喜んだ後、突然我に返った。


「そういえば、てん菜糖の種もあるって言わなかった?」

「言ったよ。あと二十日大根の種も」

「うはー、マジか。この国の気候ならてん菜の栽培も可能だし、この国初の砂糖栽培に着手できる!それもマジ嬉しい!輝ありがとう、異世界に来てくれてありがとう!」


 その『ありがとう』は何か複雑だ。


「二十日大根はみんなに配れるように種を量産したい」

「みんなって?」

「ターナルスペリティ国民」

「思ったより壮大だった」


「私がこちらの世界に転移してきた時も、カフェをしている友人宅にうちのジャガイモを届けに行くところで、ミニトマトの種もちょうど持っていたのよ。それで種を量産してみんなに配ったの。配ったのには理由があるけれど、それも追々話していくわね」

「ジャガイモは全部食べてしまったのか?うちのジャガイモ、大好きなんだけど」

「ううん、半分ぐらいは食べたんだけど、残りは種芋にして城下街内のみで量産してる。こっちの世界にもジャガイモ自体はあるんだけど、どうも日本から持って来た食べ物には不思議な性質があるみたいで・・・」


 どうやら他国に知られるのは不味いようで、俺が転移時に持っていた種については少しの間秘匿することになりそうだ。


 でも、早くお米を食べられるようにしたいなら、水田の土作りができていないと話にならないし、種もみからの苗作りなどはもうそろそろ始めないと、今年は作れないと思うんだけど・・・

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