第3話

 王妃は俺の知り合い…?


 俺は名乗っただけなのに王妃様はうろたえ、王様は何かを悟ったかのように俺の方に目を向けた後、王妃様を支えるように抱き止める。


 こ、こういう時って、どうしたらいいんだ?とりあえず黙っていたほうがいいのか?全くもって分からない。俺の心の焦りゲージだけがどんどん溜まっていく。何かよく分からない汗もかきはじめてシャツで汗を拭っていたら、王様に支えられた王妃様が玉座の階段?を降りて俺の方に歩いてきた。


「ひ…輝、輝なのね…」


 王妃様が涙を流しながら俺の顔を両手で挟んだ。その顔はどことなく嬉しそうで、でも唇を震わせている。


「私は…あ、あなたの母よ…」


 そういって、王妃様は俺の頬を挟んでいた両手を後ろに伸ばし、ぎゅっと俺を抱きしめ、「会いたかった…会いたかった…」と言いながら大泣きし始めた。母って…母親のことだよな?確かに俺の母さんは俺が3歳の時、知り合いの家に行く途中で行方不明になったらしいけど…って、俺と同じように異世界へ転移していたってことか!?


 俺は、泣きじゃくりながら俺を抱きしめている王妃様のぬくもりを感じるうちに、段々冷静になってきた。ほとんどが写真でしか記憶のない母さんの顔よりだいぶ綺麗だが、確かに目の辺りなどは面影があような…氣がする。


「この男が日本に残してきたという凜の息子なのか?」


 王様が王妃様に問いかけると、王妃様は俺を抱きしめたまま首を何度も縦に強く振った。俺は、抱きしめられたまま、動けない。正確には動いていいのか分からないから、なすがまま状態というわけだが。


「ヒカリ…と言ったな、身分や話し方など気にしなくて良い、凜がこの状態だから氣になっていることは何でも我に聞くが良い。あと、すまぬが凜の氣が済むまでこのままにしてやってくれないか」


 王様が優しそうに俺に微笑みながらそう言った。王様の様子からして王妃様は俺の存在を王様に話してたんだろう、俺に対して忌避感などは感じられないし、王妃様愛されてるなぁなんて思いつつも、結局は動けないのかと悟った。

 母親に会いたいと思ったことは何度もあるが、王妃様の格好をした人に「母です」って言われても、正直実感が湧かない。


「とりあえず、状況から判断して俺は日本には戻れないんですよね?でも、何もかも分からない状態で、どうしたらいいかも分からないのですが…」

「ヒカリの住まいはこちらで用意する。城の敷地内の方が凜も安心だろう」


 王妃様がこくこくと頷いている。俺は抱きしめられたままだ。


 ぐぅ~きゅるるる~


 突然、俺のお腹がわめき出した。ちょっと恥ずかしい。


「おなか…すいたの…?」


 少しずつ泣き止み始めていた王妃様が俺の顔を覗き込んでいる。


「そういえば、お昼ご飯まだだった」

「なにか、用意させるわね。大丈夫、このお城のシェフが作る料理は日本人でもおいしいと思える味付けですからね」


 その会話で、城に着いた時に騎士っぽい人に預けたリュックのことを思い出した。リュックの中には、種の他にばあちゃんが握ってくれたおにぎりなども入っていて、悪くならないうちに食べなきゃということに氣付いた。


「食事の用意は大丈夫です。城に入る時に騎士っぽい人に俺のリュックを預けたのですが、その中入ってるおにぎりを食べるので返してもらえませんか?」

「えっ、おにぎり!?大変っ、至急健夫さんに連絡してもらえるかしら?」


 王妃様の涙がこちらが驚くほど一瞬で引っ込んで、壁に立っていた騎士に慌てながら指示を出している。それになぜおにぎりで誰かに連絡を取るんだ?


「急いで輝のリュックを持ってきてくださる?大丈夫、危険なものは入っていないわ」


 あぁ、なるほど、危険物を城内に持ち込まないように俺のリュックは取り上げられていた?のか。だけど、リュックを返してもらうのを待っている間、王妃様はそわそわし始め、王様はそれを眺めている。何だこの光景…

 そしてさっきリュックを預けた騎士ぽっぽい人が俺に向かって走ってきたのでリュックを受け取ると、部屋(後から知ったけど、玉座の間というらしい)の扉が開いて、


「おにぎりはどこだーーー!!」


と老人の男性が叫んだ。

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