第2話

「自己紹介がまだだったな、俺はノルベール・ボルド。王城騎士団所属の騎士だ。今回、王命により君を迎えに来た」

「吉原輝と言います。あの…俺がこの世界…なのかな…に来て、それほど時間が経っていないと思うのですが、なぜ分かったんですか?」


 俺は、腕時計の時刻を見ながら質問した。この世界に転移?してまだ2時間も経っていないと思う。馬車の車内?には目の前に座っている騎士と俺の二人だけで、あとは馬を操っている御者だけだったりする。


「"ヒカリ"が名前でよいか?この国には稀に"ニホンジン"が転移することがあるようで、転移者を見つけ次第、王家が保護しているんだ。生きていくために必要なものなどを持たずに転移してくるのがほとんどだからな。この地区なら何かに襲われることはほとんどないから、素早く迎えに行けるよう最小限の人数なんだ」

「俺以外にも転移してる人がいるんですか!?」


 やけに手際がいいというか慣れている感じを受けたけど、他にも転移者がいるならマニュアル等が作られているのかもしれない。俺以外にも転移者が分かって少しだけ安心したが、果たして会わせてもらえるんだろうか。


「城下街だけで言えば、現在2人いる。これからその1人には会うことになるだろうが、陛下からの説明を待ってほしい」

「えっ?陛下?王様ってこと?俺、今から王様のところに連れて行かれるの?」

「そうだ。だが、心配はしなくていい。この国にとって転移者は神聖なる者として扱われるからな」

「はぁ、神聖なる者って…」


 転移者は神のような扱いなのだろうか、それにしてもこの国の王様に会うことになるなんて、大丈夫なんだろうか。俺、まだ社会人経験ないし、ちゃんとあいさつできる気がしない。

 ノルベールさんと話しているうちに、馬車は門らしきところを通り城下街と思われる場所に入った。門には門番らしき人が立っていたが、何も言われずそのまま通れてしまったようだ。アニメや漫画で見る異世界物のイメージとちょっと違うかもしれない。


「城下街に入ったが、城まではもう少しかかる。今のうちに聞いておきたいことはあるか?俺が答えられる範囲は限られているが」


 城下街は自分が想像していたよりとてもきれいに見える。異世界ものの町のイメージが付きすぎていたようだが、ここはだいぶインフラが整ってそうだ。街の人の身なりも普通だし、窮屈さなども感じられない。


「ここが王国だということは分かったけど、貴族階級もあるのですか?」

「あぁ、地方を統治しているのがだいたい貴族だし、城内や城の周りに住んでいるのは貴族が多い」

「そっかぁ…」


 貴族が存在するということは、上級国民思想や差別などもあるんだろうか。そういうのは…見たくない。俺ががっかりしたように下を向くと、ノルベールさんが慌てて言った。


「少なくともここに住む貴族は一般民に対して差別意識などはないから安心してくれ。それにしても、ニホンジンは皆そこをすごく意識するのだな」

「俺が育った日本に貴族階級はなくて…でも、お貴族様って一般市民を見下すイメージしかないから…」


 完全に西洋思想とアニメや漫画の影響を受けすぎているな、俺。


「俺も貴族育ちだが一般民の友人も多いし、尊敬する人もいる。まぁ、地方の貴族の一部にそういう輩もいたりするが、この城下街に入れないだろうから気にしなくていいぞ」


 街の雰囲気からもここはとても守られているんだと思った。元の世界に戻れるのかどうかも分からないけど、ここで暮らすのに危険は少なそうだ。

 ノルベールさんにいくつか質問しているうちに、馬車はお城に到着したようだ。俺達の到着を待っていたと思われる人たちに何か言われることもなく、俺はノルベールさんについてお城の中に入っていく。突きあたりの大きな扉がが開かれ、中央付近まで歩いたところで、ノルベールさんが跪いた。その先には王様と王妃様らしき人が座っている。俺もノルベールさんの真似をした方がいいと思って、ノルベールさんの後ろで跪いた。


「陛下、ニホンジンの少年を連れてまいりました」

「ニホンジンは謁見の作法を知らぬだろう、二人共楽にして構わぬ」

「はっ!」


 ノルベールさんが立ち上がったのを感じ、自分も立ち上がって王様らしき人におじぎをした。


「随分若く見えるが、年はいくつだ?」

「15歳です」

「ほぅ、お前のような若者が転移してくるのは初めてかもしれぬ」

「確かに、転移者の中で一番若いわたくしが22歳の時でしたからね。わたくし以外は皆40歳以上で転移していますもの。本当に珍しいことです」


 王様と王妃様(だと思う)の会話から、王妃様が日本からの転生者だとわかった。ノルベールさんが言っていた日本人の1人が多分この人だろう。王様を含め、周りに黒髪の人は見当たらないけど、王妃様は黒髪黒目、そして日本に住んでいたころはもてていただろう、結構な美人だ。

 王様は金髪で顔がイケメンっていうか顔が整っているという感じ。そして、よっぽど王妃様のことが好きなんだろう、ものすっごい笑顔で王妃様に話しかけている。王族の顔がいいのは異世界ものと同じなんだな。


「我はラディアント・ターナルスペリティ、このターナルスペリティ王国の王だ。そして隣にいるのが妻の凜、日本からの転生者だ。お前の名は?」


 目の前の二人が王様と王妃様であることが確定すると、自分の中で緊張感が走った。作法も何も分からないけれど、粗相はしないように気をつけたほうがいい。あー、敬語の使い方とかばぁちゃんに習っとけばよかった。


「吉原輝と言い…申します、輝が名前です」


ガタッ


「えっ、輝…輝なの!?」


 王妃様が突然立ち上がって大きな声でそう叫び、両手を口元に寄せ体を震わせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る