異世界転移したら行方不明だった母が王妃だった

deep-friedbread

第1話

「じゃあ、じいちゃん、いってくるよ!」

「ああ、よろしく頼む」


 高校受験の合格発表も済んで、あとは入学式を待つばかりとなったある日のこと、俺はお米や種などを自転車の荷台やリュックに詰め込んで、祖父の友人宅へと向かっていた。

 祖父の友人である長治さんはにんじん農家だけど自家用にお米とてん菜を栽培したいらしく、春休み中の俺が借り出されたというわけだ。


 うちの畑で作っている野菜はじゃがいもがメインだけど、自家用にお米やてん菜、他の野菜も育てていて、作りすぎたと言ってはじいちゃんがあちこちに配るものだから、うちのお米や野菜などのおいしさは結構知られている。


 毎日の農作業で鍛えているとはいえ、自転車の前後の荷台にお米とじゃがいもを載せているものだから結構重いし、きっと帰りはたくさんのにんじんを持たされて軽くはならないんだろうなぁと思いながら、自転車を漕いでいた。冬に降り積もった雪も結構溶けてはいるけど、日陰や橋は路面が凍っているところもあるから気をつけないとと思いつつ橋を渡っていたところ、突然空から真っ白な光が…降ってきたあ!?



・・・



 どのぐらい時間が経ったのか分からないし、何があったのかもよく理解できない状態で目を覚ました俺は恐らく気絶していたのだろう。サコッシュからスマホを取り出すと、予想通りの圏外。まだ少しぼーっとした状態ながらも辺りを見回すと何となくだが、北海道じゃない…いや、ここは日本じゃないと感じた。


「何がおきたんだ?」


 広い草むらに一本の舗装されていない道、その先にある街っぽい感じの建物…今のこの状況が何なのか考えようとすると不安と恐怖で押しつぶされそうになるのを感じた俺は、変な思考を止めるために乗っていたはずの自転車を探すことにした。


「自転車が見つかれば、歩くより移動は楽になるはず」

「荷台のお米とじゃがいもがあれば、街で物々交換できるんじゃないか」

「お菓子とかもリュックに入れておけばよかったな」

「このリュック、種しか入れてないし…」

「北海道もたいがい田舎だけど、ここも相当田舎だよな」


 この状況から導き出される結論に辿り着かないよう、変な思考が働かないよう、とにかく俺は独り言を言いまくってみた。


「ほんと、ここ、どこなんだよ…」


 結局、探した範囲に自転車は見当たらず日が傾いてきたため、とりあえず街?を目指して歩くことにした。

 スマホはいざというときのために、電池を切っておいた。でもスマホが必要になるような「いざ」というときが来るのか?


「不審者扱い、されないといいけど」

「日本円、使えないよなぁ」

「そもそも、人が住んでいるのだろうか」

「よく分からない生き物の街だったりしたら?」


 俺は、少しでも強さを軽減させたくて、とにかく独り言を言いながら歩く。街?まではまだ時間がかかりそうなだけに、いろんな意味で心が折れないよう、くだらないことをとにかくつぶやいていた。


「街、結構遠いな…」


 体感で2km歩いたか歩いていないかぐらいの時間が経った頃、街の方から一台の馬車がこちらに向かって走ってくるのがわかった。馬車を操縦してる人…御者だっけ?、服装は日本人っぽくないけど普通の人間のように見える。俺は少しホッとしたのを感じた。俺の中で、ここが異世界であることが確定してしまったため、見た目が違うだけで魔物みたいない扱いされないか心配だった。

 そういえば、異世界物のマンガやアニメだと、なぜか相手の言葉がわかるようになっているけど、実際はどうなんだろう。


「とりあえず馬車が近づいたら乗せてもらえるか聞いてみよう」


 街から出てきた馬車なので、どこへ行くのかは分からないけど、最悪御者の隣でもかまわない。俺のことを無視して通り過ぎるのだけは勘弁してほしい。そんなことを思いながら、馬車が段々近づいてくるのを脇道を歩きながら見ていた。


 馬車は俺の存在に気づいてなのか俺の手前で止まり、馬車の中から一人の男の人が出てきた。


「君、さっき転移したばかりの異世界人だね?」


「えっ?どうしてわかるんですか?」


「君のような存在を保護するよう言われている。とりあえず、お城に連れて行くから馬車に乗ってくれ」


 この人を信用して大丈夫なんだろうかと思いつつも他に頼れる人もなく、俺は言われるがままに馬車に乗り、馬車街に向かってUターンした。

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