父のこと

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  父のこと



  一


父は大酒飲みだった

若くして糖尿病で亡くなった

その父の年齢に

ことし私は追いついた


幼い頃の思い出に

ろくなものはない

記憶の中の父は

いつも酔っぱらっていた


嫌がる私を呑み屋に連れ回す

飲酒運転で3号線をぶっ飛ばす


子供の草野球に割り込んで

いきなりホームランを打つ


庭の木を剪ると言って

枝から派手に落っこちる


とにかく自由気ままな人だった

破天荒と言ってもよかった


周囲はそれなりに苦労した

母がいつも尻拭いをしていた


そんな父を

私は正直

苦々しく思っていた


しかし父は面倒見がよく

周りから

とても慕われていた


持ち前の行動力で

会社を三つ起こした


葬儀ではおおぜいの弔問客が

父の死を悲しんだ


  二


月日が流れ去り

私には息子が生まれた


にわかに

私は親の視点から

父のことを思うようになった


父は無謀ではあったが

いいこともたくさんした


酒を浴びるほどの

悔しさをバネに

何かと闘った


どんな志が

父の行動を支えたのだろう


それに比べ

いまの私は何一つ

あの日の父に及ばなかった


ときどき私は

父の夢を見て泣いた


そう言えば私には

父に教わった特技がある


特技というほどでもないが

風呂場での水鉄砲だ


すばらしくよく飛ぶ

水鉄砲なのだ


湯船の中で

両手をふくらませ

お願いのポーズをする


なるべく外に漏れないよう

たっぷりとお湯をつつむ


親指の先に

一ヶ所だけ三角の穴を開ける


そして

圧をかけながら

細く長くお湯を押し出す


ビューーーッ!


私は父がやったように

自ら手本を見せながら

小さな息子に教える


息子は興味津々で

私の手を見つめる


パパのお父さんも

そのお父さんに

教わったそうだよ


息子は「ふ~ん」と言って

なん度も試みる


ピュッ ピュッ!


小さな手が

かわいくお湯をはじく


自分はいったい

息子の目には

どんな風に見えているのだろう


はたして

こんな自分でも

少しは立派に

見えるのであろうか


お父さん

あなたの偉大さが

最近ようやく

分かるようになりました


            (了)

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