第3話 思い出

第3話「思い出」

賢治はその日の午後、家の中でぼんやりと過ごしていた。時間が経つにつれ、日々の出来事がどこか現実感を失っていくような感覚が彼を包み込んでいた。何かをする気力もなく、ただ家の中をさまよい、何もせずに時間が過ぎていくのを待つだけの日々。そんなある日、賢治はふと母親の清子から一つの小さな箱を手渡された。


「これ…お父さんが事故の日に、賢治に渡そうとしていたものよ」


清子の声はどこか張り詰めていたが、悲しみを押し殺したようなトーンで、賢治はその言葉の意味をすぐには理解できなかった。ただ、箱を手に取りながら、彼の心の中で何かが音を立てて崩れていくのを感じた。それは父の存在そのものを象徴するような、彼にとってかけがえのないものが永遠に失われていくような感覚だった。


箱は手のひらに収まるほどの小さなもので、丁寧にラッピングされていた。包み紙は少し古びており、何か特別な意味が込められているようだった。賢治は、震える手でその箱を慎重に開けた。中には小さな腕時計が入っていた。それはシンプルなデザインのものであり、賢治の父親、仁がいつも好んでいたスタイルに似ていた。


時計を手に取ると、賢治の胸に激しい痛みが走った。それは単なるプレゼントではなく、父との最後の繋がりを象徴するものだった。賢治は、その時計をじっと見つめながら、父がその日、どんな気持ちでこのプレゼントを用意したのかを思い巡らせていた。彼は父との最後の会話を思い返そうとしたが、その記憶はぼんやりとしており、はっきりとしたものではなかった。


賢治の心の中で、記憶が風化していく感覚が強まっていった。どれだけ思い出そうとしても、父との最後のやり取りや、その時の感情がはっきりと浮かび上がってこない。賢治はそれが恐ろしく、そして悲しかった。彼は父との思い出を大切にしていたはずだったが、その思い出が時間と共に薄れていくことに気づき、深い後悔が心を覆い始めた。


「なぜ、もっと早く父の言葉をしっかりと覚えておかなかったのだろう…」


その瞬間、賢治は自分がいかに無力で、父の存在が自分にとってどれほど大きかったかを痛感した。父との思い出を忘れたくはなかったが、時間は容赦なく流れ、記憶を奪い去っていく。彼は自分の中で、父との思い出が少しずつ風化していくのを止められないことに苛立ちを感じ始めた。


「お父さん…」


賢治は、時計を握りしめながら、涙が自然と頬を伝って流れ落ちていくのを感じた。父がもういないという現実が再び胸に重くのしかかり、その重圧に耐えきれずに体が震えた。彼は、もう一度だけでも父と話すことができれば、何を言いたかったのだろうか。そんな思いが頭をよぎるが、それすらも曖昧なままだった。


清子は、そんな賢治の様子をじっと見つめていた。母親として、彼の心の中で何が起こっているのかを理解しようと努めていたが、清子自身もまた、夫を失った悲しみに打ちひしがれていた。彼女は自分がこの現状を招いたことを理解していたが、それでも罪悪感と悲しみが混ざり合い、彼女の心を揺さぶっていた。


「賢治…」


清子は、言葉をかけようとしたが、喉に詰まって何も言えなかった。自分の息子に対してどう接すればいいのかが分からなかった。彼女もまた、夫を失ったことで心の中に深い喪失感を抱えていたのだ。賢治が時計を手に取る姿を見て、彼女もまた涙を流しそうになるのを必死に堪えた。


賢治は時計をそっとテーブルに置き、しばらく無言で座っていた。彼の頭の中では、様々な思いが交錯していた。父との思い出、母との関係、そして自分自身がこれからどう生きていけばいいのかという漠然とした不安。それらが彼の心を圧迫し、彼をさらに深い孤独の中に引きずり込んでいった。


「ごめんね、お父さん…」


賢治は心の中で何度もその言葉を繰り返した。しかし、それは父に届くことはないことを、彼自身も理解していた。父との時間は、もう戻ることはない。彼はその現実に対して、どうすることもできない無力感に苛まれていた。


時折、清子は賢治に何かを言おうとしたが、何も言えないまま時間が過ぎていった。彼女もまた、自分自身の心の整理がつかないままであり、息子にどう接するべきかが分からなかった。彼女は、夫を失ったことへの後悔と罪悪感に苦しみながらも、賢治に対して自分が何をすべきかを模索していた。


夜が更けていく中で、家の中には静寂が漂っていた。賢治と清子の間には、言葉にできない感情が渦巻いており、それが二人の間に深い溝を作っているかのようだった。時間が経つにつれて、賢治の心の中で後悔がますます大きくなっていった。それは父との最後の時間を、もう少し大切にすればよかったという思いからくるものであり、その思いが彼の心を苦しめ続けていた。


賢治は、これからどうすればいいのかを考えながらも、その答えを見つけることはできなかった。父との最後の思い出は、彼の心の中で少しずつ消え去っていくのを感じながら、彼はただその現実を受け入れるしかなかった。



賢治はその日の夜、自室にこもり、無気力なまま一日を終えた。部屋の中は静寂に包まれており、窓の外からわずかに聞こえてくる風の音や、遠くでかすかに響く車の音さえも、彼にとっては現実感のない、どこか夢の中の出来事のように感じられた。ベッドに横たわりながら、賢治はただぼんやりと天井を見つめていた。何も考えることができず、何も感じることができない。まるで自分自身が空虚な存在になったかのように、感情も思考もすべてが霧のように薄れていく。


「もう、何も残っていないのかもしれない…」


そんな漠然とした思いが頭をよぎるが、それさえもすぐに消え去ってしまう。感情が湧き上がる瞬間があっても、それはすぐに無力な波のように引いていく。父を失った悲しみや後悔、そして母との関係に対する複雑な思いも、今では遠い記憶の中に埋もれつつある。時間は無情にも流れ続け、その流れに抗う術を持たない賢治は、ただ静かにその流れに身を任せていた。


次の日、賢治は朝になってもベッドから起き上がることができなかった。リモートでの授業があることは分かっていたが、そのことすらどうでもよく感じられた。布団に包まれながら、彼はただ外の景色をぼんやりと眺めていた。窓の外には薄曇りの空が広がっており、時折木々が風に揺れる音が微かに聞こえてくる。無機質なその風景に、彼は何も感じなかった。どれだけ見つめても、その景色の中に意味を見出すことができず、ただ時間が過ぎ去っていくのを見守るだけだった。


「賢治!」


突然、パソコンの画面から教師の声が響いた。画面に映るクラスメートたちの表情は、彼が授業に集中していないことを訝しんでいたが、賢治にとってそれはどうでもよいことだった。怒られている理由も理解できず、ただ無表情のまま画面を見つめ返していた。教師の言葉が頭の中に響くが、その内容は霧の中に消えていくようで、何も感じることができない。自分が今ここに存在していることさえも、どこか非現実的に思えてならなかった。


授業が終わり、賢治はパソコンを閉じると、再びベッドに倒れ込んだ。どれだけ眠っても疲れが取れず、体も心も重く感じた。外から聞こえる日常の音さえも、彼には遠い世界の出来事のように感じられた。部屋の中は薄暗く、重苦しい空気が漂っていた。何かをしようという気力も湧かず、ただ時間が過ぎるのを待つだけだった。


次の日、土曜日が訪れた。学校が休みであることは賢治にとって特に意味のあることではなかった。休みの日であっても、彼の生活には何も変わることはなく、ただ無意味に時間が流れていくのだろうと感じていた。しかし、ふとした瞬間に彼は父との思い出が頭をよぎった。山奥の日土町、かつて父と一緒に訪れたあの場所。父の両親が住んでいたその町で過ごした日々が、今の彼にとって唯一の現実に繋がる手がかりのように思えた。


賢治は、何かに突き動かされるようにして、その場所へ行くことを決意した。母親に告げることもなく、彼は電車に乗り込み、山奥の日土町へと向かった。電車の窓から見える景色は、どこか遠い昔の記憶を呼び覚ますようであり、彼の胸にわずかながらの期待感を抱かせた。父との思い出がまだ残っているはずだ。あの場所に行けば、何かが変わるかもしれないという希望が、彼を突き動かしていた。


日土町に到着すると、町は静まり返っていた。賢治がかつて父と訪れた時の記憶は、どこかぼんやりとしていてはっきりとは思い出せなかった。町の風景は変わっていないはずだが、彼の記憶の中では何かが欠けているように感じられた。道を歩きながら、彼は父と一緒に過ごした場所を探し出そうとした。しかし、どれだけ町を歩き回っても、思い出は明瞭な形で蘇ってはこなかった。


彼は町の中心にある古い神社にたどり着いた。その神社は、父と一緒に訪れた記憶がある場所の一つだった。しかし、その場所に立っても、彼の中で何かが変わることはなかった。記憶は風化しており、鮮明だったはずの思い出は、まるで砂が指の間からこぼれ落ちていくかのように、次第に消えていくのを感じた。


「何も、思い出せない…」


賢治は神社の境内で立ち尽くし、ぼんやりとその場に佇んでいた。かつて父と過ごしたはずのその場所で、彼は何も感じることができなかった。記憶の中にある父の姿は、次第に輪郭を失い、ぼやけていく。それは恐怖だった。自分の中で大切にしていたはずの思い出が、時間の経過とともに風化していくことに対する強烈な恐怖感が、彼の胸を締め付けた。


「どうして、何も思い出せないんだ…」


賢治は心の中で叫びながら、神社の石段に腰を下ろした。頭の中では、父との最後の会話や、父が自分に伝えようとしていた言葉を必死に思い出そうとしていたが、その全てが霧のように曖昧になっていた。どれだけ思い出そうとしても、記憶は遠ざかり、手の届かない場所へと消えていく。


「父さん…」


彼は小さな声で呟いたが、その声は風にかき消されてしまった。



賢治は神社の石段に座り込んでいたが、徐々に周囲の静かな風景が彼の心にわずかな落ち着きを与えた。木々の間をそよぐ風の音、遠くに響く川のせせらぎ、そしてどこかから聞こえてくる鳥のさえずり。これらの音が彼の思考を少しずつ和らげていくのを感じた。時が止まったような感覚の中で、彼はただぼんやりと座り続けた。


「このままここにいたい……」


そんな思いが一瞬胸をよぎったが、それもまた虚ろなものだった。現実感が失われ、彼自身の存在さえも曖昧になっていくような感覚が押し寄せる。賢治はしばらくその感覚に身を委ねていたが、ふと腕時計に目をやると、バスの時間が近づいていることに気づいた。


「帰らなくちゃ……」


その言葉は自分に向けて言ったのか、誰かに聞かせるために呟いたのかさえわからない。ただ、帰らなければならないという義務感だけが彼を動かした。ゆっくりと立ち上がり、神社の境内を後にして、石段を下りながら下町へ向かう。彼の足取りは決して軽やかではなかったが、それでも目的地へと進むために少し急いだ。


坂道を下り、町の中心部へと向かう途中、彼は遠くにバス停を見つけた。バスが来るまであと少しの時間があったため、彼は最後にもう一度町の風景を見渡した。かつて父と共に歩いたはずの道、父の思い出が刻まれているであろう場所。しかし、記憶は相変わらず曖昧で、そのどこにも父の姿をはっきりと想起することはできなかった。


「父さん、本当にここにいたのかな……」


賢治の心には、失われた時間と記憶に対する漠然とした不安が広がっていた。思い出したいという強い願望がある一方で、それを思い出せないという事実が、彼に恐怖感を与え続けていた。しかし、思い出そうとすればするほど、記憶はますます遠ざかり、手の届かない場所へと消えていく。


彼は何も言わずにバスに乗り込み、実家への道をたどった。車内では景色を眺めるでもなく、ただ窓の外をぼんやりと見つめていた。賢治の中で、現実と記憶が混じり合い、まるで夢の中を彷徨っているかのような感覚が続いていた。


翌日の日曜日、賢治は目が覚めると、何かに突き動かされるようにして家中を探し回り始めた。彼の心には、父の痕跡を辿りたいという思いが強くなっていた。今までは思い出さないようにしていたのかもしれない。しかし、今はその痕跡を求めてやまない感情が彼を突き動かしていた。


最初に目に留まったのは、リビングにある古びたアルバムだった。賢治はそれを手に取り、一枚一枚ページをめくり始めた。写真の中の父は、若々しく、今の彼の記憶の中にある姿とは少し異なっていた。笑顔を浮かべ、家族と過ごす姿が何度も映し出されていたが、その笑顔は今や遠い過去のものとなっていた。


「こんなに笑っていたんだ……」


賢治は、父がこんなにも楽しそうにしていたことに驚いた。彼が覚えている父は、いつも厳格で、どこか冷たい印象を持っていた。だが、このアルバムの中の父は、彼が知らない一面を見せていた。


アルバムを見続ける中で、賢治は次第に父との思い出が断片的に蘇ってくるのを感じた。小さな頃、一緒に遊びに行った公園での記憶や、初めて自転車を教えてもらった日のこと。賢治の中で、これまで忘れていたはずの記憶が少しずつ形を取り始めていた。


しかし、その一方で、思い出そうとすればするほど、彼の心にはある種の焦燥感が広がっていった。完全に思い出すことができない記憶。曖昧でぼんやりとした断片が、彼の中で不安と恐怖を引き起こしていた。


「もっと、思い出したい……」


賢治はそう思いながら、次々とアルバムを漁り始めた。家の中には、まだ他にも写真が残っているかもしれないという期待があった。古びた引き出しや、押入れの奥にしまわれた段ボール箱を開け、そこに眠る家族の歴史を探し出そうとした。


やがて、彼は父の古い手紙やメモ、使い古されたノートを見つけた。その中には、父が生前どのようなことを考えていたのか、彼の内面を垣間見ることができるものが多く含まれていた。父は決して多くを語る人物ではなかったが、その書かれた言葉の中には、彼の深い思索や葛藤が感じられた。


「こんなこと、父さんは考えていたのか……」


その手紙を読み進めるうちに、賢治は今まで知らなかった父の一面に触れたような気がした。父が抱えていた悩みや、家族に対する思い。その全てが彼の知らないところで繰り広げられていたのだ。


賢治はその手紙をそっと閉じ、深い息をついた。父の存在が、今まで以上に身近に感じられる一方で、その距離が埋まらないもどかしさが彼の胸に広がっていた。


一日中、賢治は家の中で父の痕跡を探し続けた。写真や手紙、そして小さな思い出の品々。それらに触れるたびに、彼の中で父の存在が少しずつ形を取り戻していくように感じた。しかし、どれだけ探しても、彼が完全に父を思い出すことはできなかった。記憶は風化し、時間の流れとともに失われていく。



賢治にとって、その日から始まった新たな生活は、一種の探索であり、回帰でもあった。彼の内面では、父の記憶を取り戻すための強迫的なまでの欲求が、次第にその生活の根幹を支配し、彼の行動原理の一つとして構築されていった。記憶が風化し、消失していくという現象は、時間という冷厳な摂理の中で避けがたい宿命であることは理解していたが、それに対抗するかのように、彼は日々の行動を細かに調整し、父との過去を再構築するための一連の儀式を編み出していった。


その生活は、徹底的な秩序と反復の繰り返しによって形成された。彼の一日は、過去を振り返る行為から始まり、そこに回顧と考察を重ねることで成り立っていた。朝、目覚めるとまず最初に行うのは、父が残した遺品の確認だった。これらは単なる物理的な存在に過ぎなかったが、賢治にとっては記憶の断片であり、その断片をつなぎ合わせることが彼の唯一の希望だった。例えば、父が使っていたペンや、読みかけの本、あるいは最後に着ていた服など、全ての物に触れるたびに、それらがどのようにして父の手に渡り、どのような文脈で使用されていたのかを思い出そうと試みた。


この過程は、単なる感覚的なものに留まらず、賢治の精神的な探究でもあった。記憶とは単なる脳の電気的な信号の集積に過ぎないが、その信号が何を意味するのか、どのようにして一つの意識として形成されるのか、その全体像を捉えるためには、哲学的かつ心理学的な深淵にまで踏み込まなければならなかった。ここで彼は、認知科学や神経心理学に関する文献を読み漁り、自己の記憶と父との繋がりを再定義しようとした。彼にとって、父との記憶を失うということは、自己の一部を失うことと同義であり、それはすなわちアイデンティティの崩壊を意味していた。


一方で、彼は日々の生活の中で、身体的なルーチンも取り入れていた。父が生前好んで行っていた散歩コースを辿り、その歩幅や呼吸のリズムを再現しようと試みた。単なる追体験ではなく、父が感じていたであろう感覚を再現することで、彼の中に宿る父の記憶を呼び覚まそうという試みであった。この行為には、心理学的なミラーリング効果を期待していたが、賢治にとってそれはもっと根本的な、自己の再構築のための儀式でもあった。体を使って過去を再現することで、精神的な安定を図ろうとしていたのである。


このような行為の中で、彼はしばしば「自己の喪失」という概念に向き合わざるを得なかった。現代の心理学や精神分析学では、自己の統合と分離という問題がしばしば取り上げられるが、賢治にとってそれは単なる理論的な問題ではなく、切実な現実であった。父の記憶を失うことは、自己の一部が失われていくことに他ならない。しかし、それを取り戻すための手段はあまりにも限られており、どれほど努力しても記憶は完全には戻らないという現実が、彼の精神に絶えず影を落としていた。


加えて、彼は家族との関係性にも複雑な感情を抱いていた。母親や祖父母は、賢治がこのような過剰なまでの回顧行動に囚われていることに気づき、時折それを止めようと試みたが、賢治にとってはそれが唯一の精神的な救済策であり、他者の介入を許すことはできなかった。家族との距離感が次第に広がっていく中で、彼はますます孤独を深め、記憶という無形の存在に取り憑かれるようになった。


彼の生活軸は、こうした精神的な探求と日常的な反復によって支えられていたが、それが次第に彼の精神を蝕んでいくことに彼自身は気づいていなかった。父の記憶を取り戻すことが目的であったはずの行動は、次第に目的そのものが曖昧になり、ただ記憶に囚われ続けることが彼の生きる意味となりつつあった。時間の経過とともに、彼は現実と記憶の境界を見失い始め、過去と現在が錯綜するような感覚に陥っていった。


この錯乱状態は、彼が無意識のうちに自己を守るための防衛機制として形成されたものであったかもしれない。記憶の風化に対する恐怖は、彼を現実から遠ざけ、過去という抽象的な空間に閉じ込める作用を持っていた。彼は次第に、現実世界での交流や日常生活を放棄し、記憶の中に閉じこもることを選んだ。それはまるで、時間という不可逆な流れに対する抵抗のようであり、失われた過去を再現することで、自身の存在を保とうとする無意識的な行動であった。


賢治にとって、父との記憶を追い求める生活は、自己の存在証明であり、アイデンティティの再構築でもあった。しかし、記憶というものが常に変容し、風化していく性質を持っている以上、その試みが完全な成功を収めることはなかった。

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