第五話 旅行に行きたいっ!

秀世「旅行に行きたいです…」


寝物語に秀世ちゃんが呟く。


恥ずかしがりやの彼女は、今でも逢瀬の際には暗がりを求めてくる。

薄暗い部屋の中。それでも闇に慣れた視界の中に浮かびあがる彼女のしなやかな肢体は美しい。16歳の少女の、余計なものが何も着いていないかのような身体…


「京都、良かったよなあ」

秀世「はい…今度は大宰府にも行ってみたいのです」


意外に思われるかもしれないが、華僑出身の秀世ちゃんは国文学で大学を目指している。


平安文学に重きを置きつつ、結婚した今でも彼女は国語教員採用試験合格を目標にしている。


婚姻届提出の直前、憧れの京都に取材に行きたいと言う彼女に懇願されて、俺は京都旅行に同行した。


…良かったわ、京都。隣の秀世ちゃんの表情がまた良くて…ただただ夢見る女の子がそこにいたんだ。


よっぽど京都良かったんだねってささやいたら「好きな人と一緒に旅行するの夢だったんです」とか可愛いこと言ってくるし。


そして、帰京した俺たちはしこたま怒られて(…安全配慮が足りんと)、今後の旅行計画は必ず事前報告が義務付けられた…お金持ちって大変だなあと思う…

※秀世ちゃんは小学生のころ、誘拐未遂に遭遇している。


太宰府に行くだけならいつでも行けると思うんだ。でもあんな自由な旅行には決してならないだろうと言うのは秀世ちゃんも自覚していて。


い…いや、それよりもお金持ち本当に恐るべしは…


拳秀「優くんと秀世には、兄として幸せな新婚旅行をプレゼントしたいのだよ」


そう言って見せられた通帳の桁に腰が抜けそうになる。義兄さん…こんな大金、どう使えと!!


拳秀「まあ…クィーンエリザベス号かな」


ふざけんな!

そんなのに乗った日にはお互い留年間違い無しだ!

俺たちは普通の旅行に行きたいの!!

秀世ちゃんの実家では、下手に新婚旅行の話なんか出来なかったりして。



三月「俺たちの旅行に同行するか?途中で二人で分離するにしても相談役の周さんと事前打ち合わせをうまくやっておけば、本家の納得する必要最小限の護衛で済むと思うぞ」

※周さんは、親父付きの華僑の相談役兼ボディーガード。


普通の旅行に行きたいと落ち込む秀世ちゃんを抱えた俺には親父の案はありがたくて、この時ばかりは神様に見えたものだ。


「どこに行くつもりなの?正直どこでも良いんだけどさ」

三月「福島だ。秋男おじさん覚えているか?あいつの家に一泊してから会津若松の東山温泉に行くんだ。バイクツーリングでさ」


秋男おじさんは難病で今はリタイアしているが、親父の昔の仕事仲間で親友。俺が会うのは保育園以来かな?


「バイクツーリングって…怖がりのか~さんが良くバイクのタンデム(2人乗り)を承認したね」

三月「…ああ、セ⚪クスんときに無理やり承認させたんだけど…今回は苦労したわ。寸止め三時間くらいでやっと墜ちたわ」

「…」


可哀想なか~さん。

いざとなると、親父に逆らう術がないんだよな…


三月「お前にも教えとこうか?効果的な寸止めセ⚪クスの方法」

「もう…なんと答えるべきかさえ分かんないよ親父!頼むからそんな話題、秀世ちゃんの前で出さないでくれよ!」

三月「即墜ちしそうなんだけどな、秀世ちゃん」

「…うるさいわ!!」


最も恥ずかしがりのみならず怖がりなのは、うちの嫁も同じ。

俺のCB400SBのタンデムになるんだけど…大丈夫かな。


秀世「ゆゆゆゆ優さまとごごご一緒のりり旅行、とととてもたのし『ガリッ』いった~い」


…いつものどもりだけでなく噛んじゃうとは…怖いのね…心配だわ!!

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