林田は、何も言わなかった。

 頭を下げたままだったから、どんな顔をしているのかも分からなかった。

「なあんだ」

 林田の、あっけらかんとした声が聞こえた。顔をあげると、林田は壁に背中から寄りかかり、頭の後ろで両手を組んでいた。

「なんか偉そうなこと言ってたけど、結局おまえも俺と似たようなもんじゃんか」

「似てる?」

 そうだよ、と林田は虚しそうに笑った。

「俺を卑怯者だとか言ったくせに、そういうおまえはどうだよ。レギュラーを勝ち取っておきながら、その責任に負けちゃうなんてさ」

 小者じゃんかと林田は言った。

「小者――か」

 言い返すことはできなかった。

 俺は、小者だ。

 でもいいよ、と林田は続けた。

「小者でもなんでもいいよ。そのせいで俺がエンザイになりかけたのもどうでもいいよ。だって――」

 友達だからなと林田は言った。

「おまえは小者、俺は卑怯者。友達としては釣り合いが取れてるんじゃねえか?」

 そして壁から背中を離し、俺の横に並んだ。

「な」

 と俺の肩を乱暴に抱き寄せる。

 その勢いで松葉杖を取り落としそうになる。それをなんとか持ち直し、

「危ないだろ」

 なんとか姿勢を保った。


「終わりましたね」


 と築垣が言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る