12・覚悟
1
頼ってばっかりだ。
視聴覚室へ向かう廊下を歩きながら、俺は自分の無力さに
すでに放課後である。昼休みが終わってからは、五時間目、六時間目、清掃、帰りの会と進む。間の休み時間は十分しかないからじっくりと話をすることはできない。
美術室の片付けを言いつけられたことで、残りの昼休みは終わってしまったから、あいつと話す時間は自然と放課後まで持ち越されることなってしまった。
あいつは――築垣は――。
まだ学校に残っているだろうか。
部活に入ることは特に強制されているわけでないから、部活に入っていないのならすでに帰ってしまっていてもおかしくはない。
いや、部活には入っていないものの、自ら探偵部の部長を名乗っているのだから、まだ残っていると期待できそうにも思う。
――どちらにせよ。
俺は築垣に頼りっきりだ。
――情けない。
友人の危機に、俺自身がどうにもできないなんて。
期待と無力感が頭の中で渦を巻く。
そのうちに――。
視聴覚室の前にたどり着いた。
戸を開ける。
「ようこそ探偵部へ」
よく通るテノールが俺を出迎えた。
そこに、築垣はいた。
窓を背に、入口に立っている俺と向き合うかたち立っている。
今朝初めて築垣に会ったときと同じ姿だった。背筋をぴんと伸ばして両手を背中に回している姿勢からは、執事のような上品さが感じられる。
俺は松葉杖をつきながらも速足で視聴覚室へ中程まで進んだ。
「どうしたんですか、水沢先輩」
姿勢も表情も変えずに築垣は問う。
「また助けてほしい」
いつの間にか
「探偵部への依頼とあれば、どんなことでも相談に乗りますよ。どうされたのですか」
俺は前置きも何もせず、林田が絵画八つ裂き事件の犯人にされそうになっていることを訴えた。
疑いをかけているのが猿渡であることはもちろん、猿渡がなぜ林田に疑いを抱いたのかという理由、事件の
と言っても理路整然と話したわけではない。焦っていたし整理のつかない部分もあったから、時系列や因果関係は
その頃には、築垣はすべての内容を把握しているようだった。
俺が話し終えてから築垣は一言、
「しかし今の話だけを元に考えるなら、絵画八つ裂き事件に関しては林田先輩が冤罪とは言い切れないですね」
と言った。
――そうだろうか。
いや、そうなのかもしれない。可能な時間はあったのだから。
「でも、そんなことをする動機がない」
「動機なんて、いくら推理したってわかりませんよ」
せいぜい想像するくらいが関の山ですと築垣は淡々と言った。
「それなのに、なぜ水沢先輩は、林田先輩が今回も犯人ではないと思うのですか。友人だから、ですか」
その口調はどこか挑発的でもあった。
「そういうわけじゃないが――いや、それもあるけど」
「犯人ではないことを知っているからでしょうか。それとも――」
犯人であってもらっては困るからですか。
「なに? どういうことだ」
築垣は顔を横に向けて、別にと言った。
「多くある可能性の中の、いくつかを示したに過ぎません」
築垣の白い頬を、夕日が
じわじわじわと
――どこまで。
どこまで解っている。
「とにかく」
俺は沈黙を切り裂くつもりで大声を出した。
「とにかく、林田を助けてやってくれ」
「わかりました」
あっさりと、築垣はそう言った。が、すぐに、
「ただし――」
人差指を立てて俺に迫ってきて、
「それを証明することで、水沢先輩の奥に
築垣は俺の正面で足を止めると、
「それでもいいですか」
やや腰を折って俺の顔を覗き込んできた。
「どういう――意味だ」
「どういう意味においても――です」
もう、見通されているのだろうか。
どく、どく、と心臓が鳴っている。
見通されているのなら、隠してもしょうがない。ハイと答えてすべてを見通してもらうまでだ。だが――。
もし、まだ見通されていないのなら――。
――いや。
どちらにせよ拒絶する選択肢はない。築垣に相談する以外の方法がないのだから。
目を
「頼むよ」
と言った。
「いいでしょう」
目を開けると、正面に立っていた築垣が足を踏み出そうとしているところだった。
「ではさっそく、事実確認と情報収集のために、調査に行きましょう」
築垣は俺の脇を抜けて、出口へ向かっていった。
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