#2






「『空腹は最高のスパイス』という言葉がありますね」



「簡単な例を上げましょう」



「ここに特に何の変哲もない水があります」



「飲んでみてください」



「はい。ちゃんとゴックン出来ましたねー。偉い偉い」



「さて、今、飲んだ水ですが。味の方は如何だったでしょうか?」



「そうですね。何の味もしませんでしたね」



「それはそうです。ただの水ですので」



「ですが。この水に何も手を加えることなく美味しくする方法も、不味くする方法もあります」



「それが空腹ですね」



「例えば腹がはちきれんばかりの大量の水を飲んで、もう何も口に入らない、これ以上飲んだらゲロ吐いてしまう状態で、この水を飲んだとしましょう」



「まず間違いなくクソ不味く感じることでしょう」



「逆に1週間ほど飲まず食わずで生活した後に、この水を飲んだとしましょう」



「すると、どうでしょうか?」



「ただの水。まったく同じ水であるにも関わらず、その時に飲んだ水は恐ろしい程に美味しく感じることでしょう」



「『空腹は最高のスパイス』というのはこういう事ですね」



「その時々の身体のコンディションで同じものであるにも関わらず美味しく感じることが出来るスパイスとなるのが空腹な訳です」



「まあ、この様なことはわざわざ説明しなくとも、ご理解はされているかと思います」



「さて」



「そろそろ食事にしましょうか、ご主人様」



「今宵も、この何でも出来ちゃうパーフェクトクールビューティーメイドがご主人様の為に腕によりをかけてお食事を用意させて頂きました」



「ほらどうです。ご主人様の好物ばかりでしょう?ご存知の通り、味の方も保証済みなのは普段から私の料理を食べているご主人様ならば既に理解されている既知の事実」



「今日も一日頑張ってお疲れ様でしたね。お腹も空いていることでしょう」



「そんなご主人様には最高に美味しい料理を堪能して頂きたいと思います」




ガシャンッ!




「おや?どうなさいましたか、ご主人様」



「これは何かーーと?」



「見れば分かるじゃないですか」



「手錠です」




ガシャンッ!




「おやおや?どうかなさいましたか、ご主人様」



「これは何かーーと?」



「見れば分かるじゃないですか」



「足枷です」



「次はコレですね」



「これは何かーーと?」



「見れば……ーーふむ……。これはちょっと分かりづらいかも知れませんね」



「猿轡です」



「はいはい。付けづらいので暴れないでくださいねー」



「暴れんなっつってんだろ……オラッ!」




ガッ!




「ふう……装着完了ですね。これで身動き取れなくなっちゃいましたね、ご主人様」



「ふふふっ……」



「無様、無様」



「おっと、いけませんね。ご主人様の無様で情けない姿を見てついつい加虐心に火がついてしまうところでした」



「危ないですね。何も私はご主人様を痛ぶって楽しもうとしている訳では無いのです」



「ホントやめてくださいよ。あまり私をイライラさせないで頂きたい。そういうところですよ、ご主人様。まったく……少しは自重して下さい」



「ふむふむ。状況が掴めず困惑してるご様子ですね」



「何故、自分が急に拘束されたのか分かっていないのですか?」



「これは察しが悪いご主人様ですね。私のご主人様なのですからメイドの思考回路はちゃんと把握して置いて欲しいものです。これは減点ですよ減点」



「はぁ……。仕方ありませんね」



「私がご主人様の事をどうして拘束したのか?ご説明しましょう」



「先程申し上げましたが『空腹は最高のスパイス』になると説明しましたね?」



「そうです。そういうことです」



「排出率0.003%のSSRメイドちゃんの作った料理はそれはもうこの世の頂点に君臨する程に美味しい料理ではあります。正直、完璧に美味し過ぎて他の追随を許さぬ至高の逸品であることに間違いはなく、そして、これ以上何処にどう手を加えるようとも美味しくすることなど出来ません」



「ですが」



「そんなメイドちゃんの究極ご主人様ラブラブフルコースを更に美味しくする方法があるのです」



「それが空腹です」



「料理に手を加えられないのならば、それ以外の要因を整えることで究極のその先に到達することが出来るのです」



「ご主人様は既にまともに餌も貰えずガリガリにやせ細った子犬の様にお腹をペコペコにさせている事でしょう」



「が」



「まだ足りません」



「まだまだ飢えが足らないのです」



「もっともっと飢えるのです」



「栄養失調でくたばるギリギリまで飢えるのです」



「故に」



「生死の境を彷徨うに至るまでご主人様は絶食です」



「我慢するんです」



「そして、その先に至った時に私の料理を食べて頂きます」



「するとどうでしょう」



「究極に美味しすぎる私の料理が、なんと!更に美味しくなってしまうのです!」



「これが究極のその先に存在する真の究極なのです!」



「その為の絶食」



「これぞ最高のスパイス」



「そして、拘束な訳です」



「逃げられては困りますからねー」



「安心してください」



「ご主人様の事を餓死させたりなんかしません」



「ご主人様が死んでしまったら私も生きてる意味が無くなってしまいますから」



「ちゃんとこれから先もご主人様とは末永く幸せに暮らして生きたいですからね」



「ご主人様のバイタルチェックは私がバッチリ行いますので」



「拘束され動けないご主人様の身の回りのお世話も私が全部してあげます」



「まあ、そこはメイドですからね。全てお任せ下さい」



「ご主人様は何も心配することなどありません」



「で・す・か・ら」



「餓死する限界ギリギリまで……」




「飢えてください♡」











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