イカれたメイドのしゅき放題
助部紫葉
#1
「しゅきッ!」
シーン……。
「あっ…………」
「………………んッ」
「ゴホンっ……!」
「失礼しました。少し取り乱してしまったようです」
「……はい?私がご主人様のことが好きだと?」
「ありえません。私はご主人様専用のただのメイド。ご主人様に仕えているのはあくまで雇われているだけで、お賃金を貰うためです。あくまで仕事です。ビジネスです。ビジネスメイドです。そこに私的な感情などありませんのでご主人様のことなんて全然好きでもなんでもありません」
「ほう。不満そうな表情ですね。私がご主人様のことなんとも思ってないのにガッカリしちゃいました?」
「ふーん」
「それはつまりビジネス的な意味ではなく好意から仕えて貰ってたら良かったなぁ、ということでしょうか?」
「つまりつまり、それはつまり、ご主人様は私のことが好きだということですね?」
「恋愛的な意味で。ライクではなくラブ的な意味で」
「出来れば一生死ぬまでお世話をして欲しいという意味で」
「子供は男の子1人女の子1人の2人で私たち含めて4人家族の幸せな家庭を築きたいという意味で」
「ご主人様ったらもうそんな将来のことも考えて下さってるだなんて……ホントしゅきッ!」
「ゴホンッ」
「いえ何も言っておりませんが?」
「は?そんな難聴系主人公でも聞き逃さないであろう大声で言っておいてそれはないと?」
「あのですね、ご主人様。例え、しっかり、ハッキリ聞こえていても聞こえないフリをするのが礼儀ではありませんか?マナーですよマナー」
「それは何故か?そんなの決まっているじゃありませんか。私がご主人様のことを本当はしゅきしゅき大しゅきなのがバレたら恥ずかしいからです」
「しゅきを隠してご主人様のことは何とも思ってませんけど?的な。クールビューティーを装うのは大変なんですからね?はち切れんばかりの、この激情を押さえ込み押し倒してひん剥きたい気持ちを我慢してるんです。あー、大変大変」
「まったくご主人様は……。そういうところですよ」
「あまり軽率に私を興奮させる様な発言は控えて頂きたいですね」
「あまり私をイライラさせないで頂きたい」
「別料金を請求しますよ?」
「……は?いくら払えばいいか、と?」
「なんですか、その言い方は……。お金を払えば解決だなんて簡単に言わないでください。そんなことを言われたら流石の私でもキレ散らかしてしまいますよ?」
「お金で愛は買えません!」
「なのにも関わらず金で解決しようとする、その態度……なんと度し難いことでしょうかッ!」
「ご主人様は私のことを愛しているんでしょ!?だったらお金ではなく行動で示すものでは無いのですか!?」
「それが理解出来たのならさっさとしてください。ほらっ、早く早く」
「…………何をすればいいか分からない?ここまで来てまだご主人様は理解していないのですか?」
「はぁ…………。何をするかなんて決まっているでしょう」
「頭なでなでしてください」
「もう一度言いますね」
「頭なでなでしてください!」
「早く」
「早く早く」
「早く早く早く」
「オッ……!」
「きちゃぁ……!」
「ふぁぁぁぁああああ…………」
「ごしゅじんしゃまのなでなでしゅごぉ……」
「しゅきしゅきぃ」
「あーん。やらぁ!やめないでぇ!もっとなでなでしてぇ!」
「えへへっ」
「んッ……?」
「はあぁ……?」
「そろそろ終わっていいかって?」
「足りませんが?」
「全然まだまだまったくまだまだ全然まったく足りませんが?」
「だから足りねぇつってんだよ、ボケカスが」
「もっとなでなでしろや、ボンクラ」
「たくっ……」
「おい」
「まさか……なでなでだけで終わるつもりじゃありませんよね?」
「なんと察しが悪いご主人様でしょうか」
「そういうところですよ?だから、女性にモテないし彼女の1人も出来ないんですよ。いやモテなくていいし彼女なんて出来なくていいんですが」
「よく考えてください」
「私がなでなでの次にご主人様に求める行為とはなんでしょうか?言われずとも察してください」
「というかそれを私に言わせないでください。恥ずかしいですので」
「………………」
「…………チッ」
「不正解ですが。まあ、いいでしょう。今回はそれで勘弁してあげます」
「はい」
「ギュッ……って、して?」
「ギューッ……って、して?」
「ハグですよ。ハグ」
「ホールド・ミー」
「んッ…………」
「おぉーー…………」
「いぇえす…………おぉ、いぇえす…………えくしぇれんッとぉ…………」
「あぁ……。ご主人様の匂い……」
「すぅーーーーーー………………」
「はぁーーーーーー………………」
「んんん…………。幸せっ…………」
「もうっ……。ご主人様ってばやれば出来るじゃないですか。ちょっとだけ褒めてあげますよ」
「まだですよ」
「まだ整っておりません」
「ご主人様もメイドちゃんの温もりをもっと堪能してください」
「ほら。ご主人様の好きな匂いがするでしょう?」
「お砂糖たっぷりの甘ったるいホットミルクみたいな優しい匂いがしますよね?」
「ご主人様はこの匂い好きでしょう?」
「甘い、あまーい……メイドちゃんの匂い……」
「ふふふっ」
「なんで知ってるか、って?」
「メイドちゃんはご主人様のことならなんでもお見通しなんですよ」
「ご主人様のことならなーんでも知ってます」
「なんだかんだ言ってはいますが、結局のところ私の事が本当は大好きですもんね?」
「はいはい」
「まったく説得力がありませんね」
「ご主人様の心臓が凄くドキドキしてるの全部聞こえちゃってますよ?」
「バレバレです」
「ほら、私も」
「”ここ”に耳を当ててください」
「ドクンッドクンッドクンッーーって私の心臓が早鐘を打つように鳴っているでしょう?」
「私の心臓の音ーー聞こえますか?」
「ご主人様に抱きしめられたから、こんな風になってしまったんですよ?」
「ああ……」
「私がドキドキしてるのご主人様に全部聞かれちゃってる……」
「私がご主人様を大しゅきなのバレちゃう」
「あっ……ダメ……。そんな真剣に聞いちゃ」
「恥ずかしいよぉ」
「でも」
「やっぱり」
「もっと聞いて欲しいの」
「私がこんなにご主人様の事が大しゅきだってこと、ちゃんと理解して欲しい」
「大しゅき」
「大大大しゅき」
「しゅきしゅき」
「ご主人様ホントしゅき」
「しゅきしゅき大しゅき」
「はぁ………………」
「………………」
「ご主人様……」
「監禁してぇー」
ガタッ!ガタガタガタガタガタッ!
「あらあら」
「どうかなさいました、ご主人様?」
「何故」
「そんな怯えた表情をしているのでしょうか?」
「……監禁?」
「あらやだ」
「もしかして声に出ていましたか?」
「これは失礼しました」
「冗談ですよ」
「冗談」
「そんなことする訳ないじゃ無いですか」
「ふふふっ」
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