第124話 変わらぬ想いとオーバーキル⑬

「もうどこにも行ったりしないよ」

「……っんなことは分かってるよ」


 産婦人科を後にした私たちは、匠刀の車で私の実家へと向かっている。


 これまで、匠刀をいっぱい傷つけて来た。

 幼い頃から一途に想ってくれていたのに。

 私は彼を捨てるみたいにして、彼のもとを去った。


 離れている6年もの歳月の間も、ずっと想い続けてくれていた彼。

 私はそんな彼を、未だに不安にさせてしまう。


「匠刀」

「……黙ってろっつっただろ」

「そうじゃなくて」

「……あ?」

「区役所に寄ってからにしようよ」

「ッ?!!」

「ね?その方が効率がいいし」


 察しのいい匠刀だから、私が言いたいこと、分かるでしょ?


「よし!区役所寄って、桃子んち行って、兄貴んとこ戻って……」

「え?」

「桃子の気が変わんねーうちに、出しとかないと」

「は?」

「思い立ったら何とやらだよ」


 そんなにも不安にさせてるの?!

 今日の今日に、婚姻届を出したいほど??


「あ、……たんま」

「へ?」

「親父より、書いて欲しい人がいる」

「……??」


 匠刀が言う『書いて欲しい人』というのは、証人の欄の人のことなのは分かるけど、一体誰だろう?


「区役所で貰ったら、桃子の家に行く前に医大に行くぞ」

「医大って、白星会?」

「おぅ。……親父より、財前教授にサインして貰いたい」

「あ……」

「確か今日は医局にいる日だったはず」

「何で知ってんの?」

「主治医なんだから、把握してんのは当たり前だろ」

「……」


 いや、当たり前じゃないよ。

 主治医なのはだよね?

 私は主治医のスケジュールなんて知らないよ。

 自分の受診日以外の出勤日だなんて……。


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