第119話 変わらぬ想いとオーバーキル⑧

 6年前に別れたわけじゃないから、正確には復縁というのとは違うかもしれないけれど。

 空白の6年間を埋めるように、私たちは私たちなりに努力した。


 地方の大学院に進学が決まっていた私は、遠距離恋愛を彼に強いる形で、あの夜、お互いの想いを確かめるために、一晩中話し合った。


 そして、私より過密スケジュールなのにもかかわらず、僅かな休みでも私が住んでる所に彼は何度も来てくれた。


 ゆっくりと、じっくりと。

 この2年ちょっとの間、私たちの速度で歩んで来たけど。

 この先の人生を考えた時に、『結婚』は出来たとしても。

『出産』は相当な覚悟と勇気が要る。


 それは、6年前の主治医の説明でも理解していたことだけど。

 医療系の大学に通っているということもあって、私は私なりに沢山学んだ。

 そして、彼も医学生ということもあって、私よりも遥かに詳しく現実を目の当たりにしたと思う。


『結婚』は、それとなくほのめかして来るけど。

 それを受け入れた先に『出産』があるのだとしたら、私は彼の希望を叶えてあげれないかもしれない。


 私自身、匠刀との子供は欲しいけれど。

 想像している以上のリスクがあると思うから。


「本音、言っていいの?」

「……いいよ」


 ずっと避けて来た話題。

 恋人として付き合うのとは、次元が違う。


「無責任な言い方かもしんねーけど、俺は欲しい」

「……」

「そんでもって、俺は諦めてねーから」

「っっ」

「財前教授も言ってたけど、日々医学は進歩してるしさ。6年前より確実にリスク軽減されてると思うし」


 再び赤信号で止まった。

 前を見据えていた彼が、ゆっくりと助手席に視線を寄こす。


「何もしないで後悔するより、トライしてダメならダメで、そん時はそん時だろ。俺は桃子がいない世界では生きられないから、子供か桃子かなら、ぜってぇ桃子を取る」

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