第106話 恋人の証と一軍男子⑪

 6年経っても愛らしい声は変わってなくて。

 ベリーショートにしたはずの髪も、6年ですっかり元通りになっていた。

 左サイドに流すみたいに編み込まれていて、俺の知らないうちにお洒落も覚えたようだ。

 6年前でも十分に美人で色気があったのに、目の前の桃子は、息を吞むほどの美人に成長していた。


 桃子は酔っているのか、少しボーっとしてる感じで。

 瞬きを何度かして、フッと柔らかい笑みを浮かべた。


「やだっ、……幻覚術マスターしちゃった」

「っ……」


 何だ、これ。

 気の早いサンタからの贈り物か?


 死ぬほど嬉しいんだけど。

 それに、すっげぇかわいいっっっ。


 嬉しそうに口元に手を当てた桃子は、おもむろに自分の頬を抓った。


「痛くないっ。……やっぱり幻なんだ」


 俺を視界に捉えたまま、一瞬で涙ぐむ桃子。

 今にも大粒の涙が零れそうで、俺は無意識に抱きしめていた。


「……ばーか」


 俺の声に反応するように、華奢な肩がビクッと震える。

 そして小さな手が、ペタペタ、ポンポンと俺の体に触れ、必死に確かめ始めた。


「へ?……何これ、3次元??」

「フッ、……ばーか。いい加減、気づけよ」

「…………ッ?!!!!」


 ガバッと顔を持ち上げ、仰ぎ見る桃子。

 未だかつてないほど驚いた様子で、小さな口があわあわとし出した。


「相変わらず、間抜け面だな」

「なっ……」

「津田?……来ないからどうしたかと思って迎えに来てみれば、何ナンパしてんだよっ」


 俺が来ないから様子を見に来た亮介。

 俺が女の子を抱きしめてるから、ナンパしてると勘違いしたようだ。


「亮介、紹介するな。……俺の彼女」

「ッ?!……ってか、君、聖泉のモモちゃんだよね?!」

「だから、聖泉に彼女がいるって言っただろ」

「えっ、マジだったの?!」

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