第102話 恋人の証と一軍男子⑦
「モモ、……大丈夫?」
「……うん」
襖に凭れるように背を預けていると、真央が心配して声をかけて来た。
普段お酒を口にしない桃子だが、この日は久しぶりにチューハイを口にした。
顔がほんのりと赤らんで、アルコールがかった吐息が漏れる。
心臓病患者にとって飲酒は、適度に飲むことで循環機能が高まることが医学的に証明されていて、1~2杯程度なら、摂取してもよいとされている。
「ちょっとお手洗いに行って来る」
「気を付けてね」
「うん」
中ジョッキのチューハイだから量が多くて、なかなか1杯が飲み切らず。
火照りを冷ますために、化粧室へと向かった。
12月中旬ということもあって。
居酒屋の店内はどの部屋も忘年会のようで、楽し気な声が漏れてくる。
桃子は化粧室でハンカチを水で濡らし、火照る頬に当てた。
「何を期待してたんだろう」
鏡に映る自分の姿が、気落ちしているように見える。
自分から去ったのに。
会いたくなったから戻って来るなんて。
馬鹿みたい。
新しい彼女ができてるかもしれないし。
医学部4年は試験漬けで寝る間もなくて、精神的ストレスで倒れる人も多いと聞く。
例え彼女がいないとしても、そんな忙しい時期に、のこのこ合コンに来るような性格じゃないのを知ってるのに。
『1軍男子』という言葉に踊らされてしまった。
桃子の中の『1軍男子』とは、匠刀のような男子を差す言葉だからだ。
「少し酔ったかな……」
緊張していたから酔いが回ることは無かったけれど。
緊張の糸がプツンと切れてしまった桃子は、ぐらりふわりと体の力が抜けたようになってしまった。
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