第101話 恋人の証と一軍男子⑥

 真央の背に隠れながら、端からゆっくりと医学生をチェックする。


「……はぁ」


 1軍男子と言われているだけあって、どの人も美形で育ちが良さそうだけれど。

 桃子が会いたいと思っていた人物は、そこにはいなかった。

 当たり前か。

 そんな偶然、あるわけないよね。


 幹事の真央が気遣ってくれ、一番端の席を確保できた。

 真央は合コン相手の幹事さんと知り合いらしく、仲良さそうに挨拶している。


 同じ系列の医療系学科という共通点から、あっという間に盛り上がって。

 乾杯音頭をしてくれた男子が自己紹介を始めた。


『合コン』という名の、遠慮のない品評会。

 テーブルを挟んだ向かい側の男子から向けられる視線に、早くも桃子は逃げ出したい気分になる。


**


「まお」

「ん?」

「これ飲み終わったら、ホントに先に帰るからね?」

「……分かってるって」


 隣りに座る真央にこそっと耳打ちする。

 電車で15分ほどの場所に実家があるが、桃子は帰省せずに、あえて友人たちとホテルに宿泊予定。

 実家に帰れば、近所に住んでいる匠刀に会うかもしれない。

 ご近所さん(商店街の人達)から目撃情報が洩れて、匠刀が乗り込んで来るかもしれない。

 そう思って、6年間ずっと避けて来たのに。

 それとは矛盾するみたいに、匠刀に会えるんじゃないかと、ありえない期待をして合コンに参加した。


「モモちゃん、次何飲む?俺、ビール頼むけど、何か一緒に頼もうか?」


 向かい側に座る男子が声をかけて来た。

 確か、佐田さんって言ってたっけ。

 自己紹介の際に、『桃の子と書いて、『とうこ』といいます。みんなには『』と呼ばれてます』と言ったから。


 当たり前のように『モモちゃん』と呼ばれて、ほんの少しだけ後ろめたいような罪悪感が薄れた気がした。


』と呼んでいいのは、両親と匠刀だけ。

 6年経った今でも、それは変わらないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る