第100話 恋人の証と一軍男子⑤

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「モモ~っ、ホントにありがとねっ!」

「一番端の席で、1杯飲んだら帰るからね?」

「分かってるって!!」


 12月中旬の土曜日。

 教授の手伝い(ボランティア)で、6年ぶりに東京の地を踏んだ桃子。

 6年前のクリスマスの夜から今日まで、一度たりとも帰省をしなかった。


 全寮制の女子校、学生寮がある女子大。

 心臓に病を抱える桃子が親元を離れて生活するのに、両親の許可が下りたのには相応の条件をクリアしていたからだ。


 胸部外科医(女医)として有名な主治医の目の届く場所で、両親が安心できる環境が揃っている聖泉は、桃子に大きな夢を与えた場所でもある。


 そんな環境下にいた桃子がこの日、6年ぶりに東京に戻って来たのは、『白星会医学部の1軍男子』というワードに惹きつけられたからだ。


 何年生の医学生なのかも分からないのに。

 自分から断ち切っておいて、未練に縋るみたいに気になっていることも、非常識だと分かっているけど。


 奇跡というものがあるなら。

 運命というものがあるなら。


 たった1杯飲む間だけでも、視界に捉えることができるんじゃないかと淡い期待を抱いてしまったのだ。


 教授の手伝いは、児童養護施設や介護施設を訪問して、歌やゲームなどのレクリエーションをするというもの。

 臨床心理士として、より多くの人と触れ合うことで、多様な尊厳を理解するのが目的だ。

 そんなボランティア活動を終え、仲のいい友人たちと、とある居酒屋を訪れている。


 大丈夫、大丈夫……何度も自分に言い聞かせる。

 淡い期待を抱いて来たはずなのに、いざ入店すると、6年前に自分がしたことが大きく責め立てる。

『どの面下げて』『全然成長してねーじゃん』

 口の悪い匠刀の声が聞こえて来そうだ。


「こんばんは~」


 真央が声掛けしながら、奥座敷のふすまを開けると、既に10人ほどの医学生がそこにいた。

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