第95話 新たな出会いと自分磨き⑩

 以前、桃子から貰ったバイク雑誌の中に1枚の写真が挟まっていた。


 その写真は、うたた寝している俺に寄り掛かっている桃子の自撮り写真。

 そして、その写真の裏に、こう記されていた。


***


 辛い時に優しくさすってくれる手

 心配そうに駆け寄って来る真剣な顔

 心まで温めてくれる手のぬくもり

 恥ずかしがって逸らす視線

 わざと意地悪く装うぶっきらぼうな態度

 微塵も不安にさせない一途な優しさ

 ずっと変わらず『桃子とうこ』と呼んでくれたこと


 全てが愛おしくて、大好きだよ


***


 初めての手紙を読んだ時と同じで、涙が溢れて来る。

 好きな子だから、当たり前にしていた1つ1つが、ちゃんと伝わっていた。


 そして、『大好きだよ』という5文字が、俺を突き動かす。

『大好きだったよ』ではない。


 二度と俺と会うつもりがないなら、あいつのことだから絶対に期待させるようなことは言わない。


 すなわちそれは、桃子の中で、いつの日か……。

 堂々と胸を張って会える日が来たらいいな、という気持ちが込められている。

 そう俺は解釈した。


 桃子は桃子なりに、自分自身にけじめをつけたに違いない。

 誰かに支えられるだけの人生なのではなく。

 自分の足でしっかりと生きることを選択した。


 だったら、俺だって。

 次会った時に、『離れるんじゃなかった』と後悔させてやる。


 もっともっとカッコイイ男になって。

 他の男なんて目にも入らないくらい、イケてる男になってやる。


 俺は自室から飛び出し、リビングに駆け込んだ。


「親父っ!」

「おっ、どうした」

「塾通わせて」

「は?」


 クリスマスの夜から、廃人と化していた匠刀が、17歳の誕生日のこの日。

 漸く息を吹き返した瞬間だった。

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