第90話 新たな出会いと自分磨き⑤

 桃子が俺のことを考えて、俺の前から姿を消したのは事実だけど。

 だからといって、別れたとは思ってねぇ。

 桃子からの手紙には、『別れよう』という文字はなかった。


 確かにあの日。

『バイバイ』とは言われたけど、それが永遠の別れの言葉だとは思えない。

 例え、別れたいと思ってしたことであっても。

 今の俺にはまだ、現実を受け入れることができない。


 好き。

 大好き。

 愛してる。


 俺にとって、そんな安っぽい言葉で括られるような存在じゃない。


 人間の体が、水や酸素を必要とするように。

 俺には、桃子が必要だから。


 『瑠美』という女を追い払い、日替わりランチを頼もうと列に並んでいると。


「津田くん、今日の放課後、時間ある?」

「……」

「選んで欲しい服があるんだけど、一緒に来て貰える?」


 何で俺がお前の服を選ばなきゃなんねーんだよ。


「あーっ、私が誘おうと思ってたのにっ!」

「残念でした~♪私の方が先に誘ったんだから」

「じゃあ、明日は私と一緒に!」


 意味わかんね。

 先とか後とか、関係なくね?

 誰が、お前らと買い物するって言ったよ?

 

「悪いけど、放課後暇じゃないんで」

「えぇ~っ、だって今フリーなんでしょ?」

「あ?」

「モモちゃんいなくなったんだから、新しい彼女欲しくない?」


 『いなくなった』だとっ?!

 桃子を否定するようなこと言ってんじゃねーよっ!

 腹立つなぁ、マジで。


 すっかり忘れてた。

 桃子と付き合う前は、こういう光景が日常だったということを。


「フリーじゃねーから」

「え?」

「だから、桃子とうこと別れてねーっつってんだろっ。ごちゃごちゃうるせぇな、食う気失せたわ」


 言いたい放題の女どもに吐き捨て、踵を返す。

 俺は南棟のテラスを後にし、晃司がいる北棟のテラスへと向かった。

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