第89話 新たな出会いと自分磨き④

(匠刀視点)


 2年に進級し、月日があっという間に過ぎ去ってゆく。

 桃子がいないというだけで、他は何一つ変わっていないのに。

 見る景色も料理の味も、全てが味気なくて。


 空手だけでなく、勉強に費やしていた時間も完全に止まってしまった。


 春休み明けの一斉テストの順位は理系で8位、普通科全体で19位。

 これまでして来た勉強のおかげで、何とか上位になれはしたが……。

 このまま何もしなければ、成績は下がる一方だろう。

 だけど、そんなことすらもうどうでもいい。

 このまま、高校を中退した方が気持ち的に楽になれる気がして。


 生きることすら、放棄したいくらい。

 桃子がいなくなった日常が地獄そのものだ。


「匠刀ぉ~~、一緒にご飯食べよ~♡」


 誰だ、この女。

 昼休みになったから学食に来てみれば、馴れ馴れしく俺の腕を掴んで来た。


「誰が名前で呼んでいいっつったよ」

「え?」

「気安く下の名前で呼ぶんじゃねーよ」

「っ……」


『匠刀』と呼んでいいのは、桃子だけだっつーの。


「前は呼んでも何も言わなかったじゃん」

「あ゛

「モモちゃんと別れたんなら、瑠美と付き合ってよ」

「……瑠美?」

「憶えてないの?去年はご飯何度も一緒に食べたのに」

「……」


 あぁ、そんな奴もいたな。

 一緒に食べたっつーより、勝手に隣りに座って食ってた女だ。


「言っとくけど、別れてねーから」

「えっ、そうなの?みんなが別れたって言ってたから」

「本人が別れてねーっつってんだから、別れてねーんだよ。勝手なこと言ってんな」


 猫なで声が耳につく。

 前は桃子しか見てなかったから何とも思わなかったが、桃子がいない今。

 こういう勘違い女が後を絶たない。


 俺が浮気して、心的ストレスで心臓が悪化し、桃子は退学したことになっている。

 誰が言い出したのかは分からないが、俺の前で言ってみろ。

 一発であの世に送ってやるから。

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