第91話 新たな出会いと自分磨き⑥

  白修館大学へと内部進学した兄貴は、空手を続けながら教育学部を専攻している。

 将来現役を引退したら、小学校の教諭になりたいらしい。

 父親は教師をしながら、空手を続けるのもありだと説得してるみたいだけど。


 野獣のような体躯だが、子供たちに指導するのは丁寧で。

 自宅道場にこの春から通い始めた幼児たちに大人気だそうだ。

 だから、教師を選択したのは兄貴らしいなと思った。


「匠刀、ちょっと入るぞ」


 すっかり引きこもりの俺を心配してか。

 兄貴が珈琲の入ったカップを手にして現れた。


「彼女は?」

「母さんと夕飯作ってる」

「もうすっかり嫁じゃん」


 ゴールデンウィークに兄貴の彼女が、自宅に遊びに来た。

 付き合い始めて一年ちょっと。

 女っ気が全くなかったオタクの兄貴に初めてできた彼女は、なんと兄貴と同じで、アニメオタクだった。

 だから、それも込みで意気投合したのだろう。

 今じゃすっかり家族の一員みたいになって、しょっちゅう泊りに来てる。


「部活もしてないんだってな」

「……それが言いたくて来たのかよ」


 自宅での稽古もすっぱり辞めた俺は、部活も勉強も全てを放棄した状態。

 桃子がいなくなって暫くは何も言わなかったけど、最近はしつこく稽古しろと言って来る。


「明後日、誕生日だろ」

「……」

「俺から、2日早いプレゼントやるよ」

「……?」


 どかっとベッド横に座り込んだ兄貴は、何だか楽しそうに俺を見る。


 5月7日は俺の誕生日。

 子供の頃は兄貴から誕生日プレゼントを貰ったりしたけど、もう何年も貰った記憶がないのに。


「モモちゃん、全寮制の女子校に通ってるって」

「ッ?!!!今、何て言った?!」

「だから、全寮制の女子校だって」

「何で兄貴が知ってんの?どこにある女子校?何県?こっから遠いの?桃子は元気にしてるって?」

「お前ホント、モモちゃんのことになると凄いな」

「俺のことはどーでもいいから!桃子のことを教えろよっ!」


 突然の兄からの言葉に、俺はベッドから起き上がり、ラグの上に正座した。

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