第13章

第86話 新たな出会いと自分磨き➀

 1月下旬のとある日の夜、寮の部屋で。


ちゃん、どうしよう」

「何か、あったの?」

「明日の数学、抜き打ちテストがあるっぽい」

夏帆かほちゃん、数学苦手だもんね。いいよ、出そうなところ、教えてあげる」

「ホント?!」


 白修館高校を退学し、桃子は中部地方にある聖泉女学院に転編入学をした。

 聖泉女学院はミッション系で、カトリックの精神に基づく全人教育の学校だ。

 広大な敷地の中には聖堂や講堂のほかに、修道院や寄宿舎、馬場や農場などがあり、もちろん校舎や体育館といった施設もある。


 全寮制のこの学校は、白星会医科大学の提携指定校の一つでもある。

 幼少期に大病を患ったことで、学校に行きづらくなり居場所を失った生徒や、親から虐待を受け、心や体に傷を負った子たちが親元を離れ、一人の人間として生きる力をつける場所として作られた学校である。


 桃子は1年の3学期という、中途半端な時期の転編入学であったが、この学校に通う生徒は博愛精神の教育を受けているため、誰もが皆、桃子を温かく迎え入れてくれた。


 寄宿舎のルームメイトでもあるつつみ 夏帆かほは、幼少期に小児がんを患い、それが原因で学校内で孤立してしまい、居場所を失った過去がある。

 性格はとにかく明るく、ムードメーカー。

 少しおっちょこちょいなところがあるが、天性の歌声を持った女の子。

 夏帆は讃美歌部に所属していて、毎週水曜日に行われるミサ朝礼では、夏帆の歌声が聖堂に響き渡る。


 夏帆は、歌は得意だが、数学が大の苦手。

 理数コースを専攻していたという自己紹介を聞いた瞬間、桃子が女神に見えたらしい。

 2人部屋というのもある。

 2人が打ち解けるには、そう時間はかからなかった。


 友達付き合いが苦手だった桃子だが、夏帆の天真爛漫さにあっという間に絆され、 入寮して僅か数日で、一緒にお風呂に入るまでになった。

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