第85話 突きつけられる現実と初めての手紙⑫

 冬休みが明けの始業式の朝。

 登校すると、当然桃子の姿は無くて。

『モモちゃん、転校したんだって』という会話が耳に入って来た。


 あぁ、本当に現実だったんだと、改めて思い知らされた。

 冬休みボケで、全てが夢だったんじゃないかと、心の中で何度も思い続けてたのに。


『津田くんっ、モモが……モモが……』


 泣きじゃくった顔で駆け寄って来た星川を見て、『あぁ、こいつも知らされてなかったのか』とホッとした自分に辟易へきえきした。

 俺だけ知らされてなかったら、たぶん気が狂い倒してたと思う。

 いや、知らされてても壊れてたか。


 桃子の部屋にあったスマホは契約解除されていて、既に充電も切れていた。

 それは、完全に俺との連絡ツールを破棄したことを意味している。


 あの手紙と一緒に置かれていたことを、未だに受け止めきれずにいるのに。


 *


『津田が浮気したから、モモちゃん転校したんだよ』

『俺なら、あんな可愛い彼女いんのに、浮気なんてしないけどな』


 教室内に、心無い言葉が飛び交う。

 言いたい放題言いやがって。

 俺が浮気?

 するわけねーだろ。

 10年以上も一途に想い続けて、兄貴を好きだと分かっても諦められなくて。

 俺の24時間365日が、あいつのためにあったようなもんなのに。


 例え浮気されたって、惚れ直させる自信があったっつーのっ!


***


 放課後、匠刀を心配した晃司が南棟へとやって来た。


「匠刀、部活出ねーの?」

「……もうどうでもいい」


 親友の晃司が声をかけてくれるけど、空手をしてたのは桃子のためだったから。

 スポーツ推薦で入学したわけじゃないから、部活をしなくたって別にどうってことない。

 家が空手道場だから。

 兄も空手をしているからしていたようなもので。


 桃子がいない学校に通うことさえ、苦痛だってのに。

 空手なんてしてられるかよっ。

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