第84話 突きつけられる現実と初めての手紙⑪

『桃子の部屋に行ってみて』

 桃子の母親にそう言われて、2階にある桃子の部屋へと上がった。

 すると、テーブルの上に桃子のスマホと1通の封筒が置かれている。


***


 匠刀へ


 ごめんね、匠刀

 こんな形で、逃げるような私は卑怯者だよね


 小さい頃からずっと、匠刀がそばにいるのが当たり前で

 いつだって私は匠刀に甘えっぱなしだったね


 匠刀がくれた、いちごみるくのキャンディ

 なんでか分かんないけど、すごく甘く感じたの

 きっと、匠刀の気持ちが込められてたからだよね


 同じものを自分で買って食べても、甘さが全然違ったの

 ホント、あれにはびっくりだよ


 初めての匠刀からキス

 今でもちゃんと憶えてるよ


 凄く驚いたけど

 匠刀が男の子なんだって、改めて知れた瞬間だったから


 私には勿体ないほどの、できた彼氏で


 私は匠刀に

 彼女として何ひとつ満足させてあげれなかったけど


 匠刀の彼女でいられたこの5カ月は

 一番幸せな5カ月だったよ


 これからは、もっと広い視野で

 色んなことに挑戦して

 今まで以上にもっと輝いてね


 今でも十分すぎるくらいカッコいいけど

 もっともっとカッコよくなって


 匠刀の全てを満たしてくれる、

 そんな女の子と幸せになってね



 今まで本当に ありがとう


***


 桃子からの初めての手紙。


 子供の頃に何度も『ラブレター書いてあげる』と言われて。

 その度に『俺のこと、好きなやつからじゃなきゃ貰わない』と断り続けた。


 その頃から俺の中では桃子しか見えてなくて。

 だけど、桃子の中の俺は、単なる『幼馴染』にしかすぎなかった。


 いつの日か、心のこもったラブレターを貰うのが夢だったのに。


 何だよ。

 ラブレターなのか、別れの手紙なのか、わかんねーじゃん。


 すげぇ腹が立つのに。

 何でだよ、涙が止まんねぇ。

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