第83話 突きつけられる現実と初めての手紙⑩

『地方の高校に転校した』

 父親の言葉の意味を理解するのに、十数秒かかった。


「じゃあ、入院してるわけじゃないんですか?」

「……あぁ、桃子は元気にしてる」

「ッ?!!」


 え、どういうこと?

 完全に悪化して入院していると思い込んでいた匠刀は、頭の中が真っ白になってしまった。


「桃子は君から離れて、自立したいらしい」

「……自立、ですか?」

「あぁ。……君のそばにいたら、君に甘えてしまうからと」

「甘えたらいいじゃないですか。彼氏なんだし、彼女なんだし。そんな気を遣うような関係じゃ……」

「桃子はね、恋人としてではなくて。……一人の人間として、君と向き合いたいんだと思う」

「それと転校と何の関係があるんですか?」

「……だから」


 もう子供じゃないから甘やかさないで欲しい。

 自分のことは自分で決めたい。

 そういうことなら、言ってくれれば俺だってちゃんと考えたのに。

 桃子が『転校』を決断した理由が理解できない。

 相田が桃子を追い詰めるように言ったのが原因なのは分かるけど。

 それでも、まさか転校したいと思うほど追い詰められていただなんて。


「どこの高校ですか?」

「……悪いが、それは教えられない」

「何でですか?俺が桃子に会いに行くからですか?」

「……」


 困惑の表情をする父親に食ってかかっても仕方ないのは分かってる。

 分かってるけど。


「桃子に話しかけたりしません。桃子が戻って来たいと思うまで、俺待ちますから」

「っ……」

「桃子の無事な姿を見るだけです。遠くからそっと見るだけなんで、どこにいるのか教えて貰えませんか?」


 このまま『はい、分かりました』と納得できるほど、俺は諦めがいい方じゃない。

 何年あいつを見守り続けて来たことか。

 待つのなんて慣れてるし、頑固なあいつのことだから、俺が説得したって考えが簡単に変わるとは思えない。

 だからこそ、この目で確かめるまで、1ミリも納得ができそうにない。


 兄貴や晃司に『お前の愛は重い』とよく言われるが、そんなもんは分かり切ってる。

 だって俺は……。


「桃子のいない世界では、俺は生きていけないんです」

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