第82話 突きつけられる現実と初めての手紙⑨
もう後悔したくないんだ。
小学校低学年の頃は、いつだって会えると思っていた。
入退院を繰り返していても、いつかは退院して帰って来ると疑わなかったし、親に強請れば、お見舞いにだって連れてって貰えた。
それが『年頃の女の子だから』という理由で、お見舞いを控えるように促され。
『退院すれば、そのうち学校にも来れるようになるから』と何度も諭された。
会いたくても我慢しなければならない。
『待ってるから』こんな単純な言葉でさえ、伝えることが出来なくて。
今と違ってスマホも持ってない年齢で、授業ノートを渡して貰うのを口実に、桃子の近況を聞くのが精一杯だった。
自然と桃子との距離ができて、いつしか『幼馴染』という過去の存在に位置づけられたようなものだった。
更には自分の兄貴を好きだと分かり、行き場のない感情に押し潰される毎日だった。
それが、やっと。
10年という年月を経て、漸く『彼氏』に昇格できたばかりなのに。
またふりだしに戻ったみたいに、桃子との距離ができてしまうなんて。
「匠刀くん。悪いが、その願いは叶えてあげれない」
「……っ」
床に正座して、懇願してもダメだと言われた。
けれど、俺だってこのまま『分かりました』と簡単には引き下がれない。
「今じゃなくてもいいんです。状態が良くなってからで構いません」
「……そうじゃないんだ」
「……?」
「桃子は、……この家には当分帰って来ないんだよ」
「へ?……そんなに悪いんですか?」
「いや、そうじゃなくて。……何て言えばいいんだ」
「お父さん。……匠刀くんにはちゃんと説明しないと」
「……あぁ、分かってるよ」
顔を見合わせた二人は溜息を吐きながら、申し訳なさそうな表情を俺に向けた。
「桃子は、地方の高校に転校したんだよ」
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