第80話 突きつけられる現実と初めての手紙⑦

「匠刀、入るぞ?」

「……」


 1月4日、午後7時過ぎ。

 三が日もあっという間に過ぎ去って、新年を迎えたのにもかかわらず、匠刀は自室で廃人と化している。


「明日、部の奴らと神社行くけど、お前も行くか?」

「……」

「ったく、エアコンくらい付けろよ」


 兄の虎太郎がエアコンの電源を入れる。

 冷え切った室内で、死んだように横たわる弟を見て、虎太郎は溜息を漏らす。


「そろそろ休診明けすんだろ」

「……ッ?!!」

「そんなに心配なら、確かめてくりゃあいいじゃん」

「兄貴っ、サンキュ!!」

「おいっ、上着くらい着てけっ」


 虎太郎の言葉で一瞬にして息を吹き返した匠刀は、空手の試合の時よりも真剣な顔つきで部屋を飛び出した。


 桃子が入院してたとしても、ずっと休診になったままではないことを知っている。

 小児病棟なら親の付き添いが必要だが、それ以外の科は緊急性がない限り、付き添いは原則不可。

 桃子に会えないとしても、両親どちらかに行き会えれば、桃子の状況が分かるはずだ。


 自宅から全速力で向かったのは、もちろん『仲村鍼灸・整体院』だ。

 商店街の通りを横切り、一際大きな駐車場があるのが、桃子の自宅だ。

看板の横に父親のワンボックスカーがあるのを見て、匠刀の心臓はドクンと強く鼓動する。


 ピンポーン。

 鍼灸院に灯りがついてないことを確認した匠刀は、自宅のインターホンを鳴らした。


「はい」

「こんばんは、匠刀です」

「……こんばんは」

「あの、桃子と連絡取れないんですけど、桃子は無事ですか?!」


 インターホンに出たのは父親だった。

 すると、ガチャッと玄関ドアが開き、桃子の母親が現れた。


「寒いから、上がって」


 明らかに着信拒否されたような状況だったから、門前払いをされると思っていた。

 インターホン越しでもいい。

 桃子の安否だけ確認できれば、それでいいとさえ思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る