第77話 突きつけられる現実と初めての手紙④

(匠刀視点)


『もう着いたか?』

『着いたらメールして』

『歩き疲れて、もう寝てんのか?』


 18時過ぎに自宅を出発した、桃子一家。

 母方の実家は、場所は分からないが、車で2時間ほどの距離だと以前聞いたことがある。

 だから、20時過ぎにメッセージを送った。


 21時を回り、風呂から出た匠刀はメールをチェックする。

 いつもはすぐに既読になるのに、今日は1時間経っても既読がつかない。

 それどころか、別れ際の桃子の言葉が引っかかって、胸騒ぎがしていた。


 今まで何度も桃子を送り届けて来た匠刀だが、『バイバイ』と言われたのは初めてだった。

『またね』『また明日ね』といつも言う桃子が、『バイバイ』と口にしたのが気になって、電話をかける。


『ただいま電話に出ることができません』

「は?」


 1コールも鳴らずに、アナウンスが流れた。

 匠刀は再び桃子のスマホへ電話をかける。


『ただいま電話に出ることができません』


 桃子以外の女の声なんて聞きたくもないし、桃子の声を聞かないと、不安で寝れそうにない。


「兄貴、スマホ貸して」

「スマホ?」

「いいから、貸して」


 リビングでテレビを観ている兄の虎太郎にスマホを借り、桃子に電話をかける。


『ただいま電話に出ることができません』

「っんだよ」

「何、どうかしたか?」

「桃子と連絡が取れない」

「……」

「既読がつかないし、電話かけても繋がんないんだよ」

「……お風呂にでも入ってんじゃねーの?」

「1時間も風呂に入る奴じゃねーよ」

「っ……」


 心臓に難があるから、長風呂はしないと知っている。


「久しぶりにおばあちゃんに会って、話に花が咲いてんじゃねーの?」

「……そうなんかなぁ」


 鍼灸院が暫く休診になるため、桃子一家が母方の実家に行くことを津田家の人間なら知っている。


「あ、兄貴、彼女から電話だ」


 手の中で、ブブブッと震えた兄のスマホに『着信中 雫』と表示されている。

 兄にスマホを返すと、虎太郎は嬉しそうに電話に出た。

 くっそ、ニヤニヤしやがって、腹立つな。

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