第76話 突きつけられる現実と初めての手紙③

「桃子、大丈夫か?」

「今は放っておいてあげましょうよ」

「……そうだな」


 父親が運転する車の後部座席に座る桃子。

 その桃子の瞳からは、大粒の涙が溢れていた。


 約1カ月ほど前に見知らぬ女子生徒から指摘され、桃子は改めて現実を思い知った。

 

 匠刀や両親に励まされ、頑張ってみたけれど。

 自分の成長なんて、物凄く僅かで。

 周りの女の子たちがどんどん綺麗になって成長しているのに。

 自分は普通に生きることが精一杯。

 大好きな彼氏に思う存分甘えさせてあげることも。

 ごくごく普通のカップルがすることも、難しくて。

 匠刀を見る度、会う度に厳しい現実を突き付けられた。


 大切だから。

 大好きだから。


 だからこそ、匠刀には無限の可能性を味わって貰いたくて。

 狭い鳥かごの中で過ごすことより、自由に羽ばたいて色んな幸せを掴んで欲しいと思ったのだ。


 学校をずる休みしていた間、桃子は主治医の財前にメールで相談していた。

何かあった時用にと、財前が個人の連絡先をこっそり桃子に教えてくれていたのだ。

 財前から幾つかの提案が示され、それを両親と何度も話し合った。


『自分の力だけで、強くなりたい』


 誰かに支えられないと生きていけない弱い自分ではなくて。

地に足をつけて、例え他の子と違う生き方だったとしても、ちゃんと胸を張って生きて行きたいから。


 桃子は両親の許可を得て、12月31日付で白修館高校を退学することにした。

 それは、匠刀や親友の素子にさえ、秘密にしたまま。


 主治医の財前の診断書と推薦書をもとに、既に他県の高校への転校手続きが済んでいる。

 更には、かかりつけの白星会医科大学の系列の病院への転院(通院)手続きも済ませていた。


 転校先の高校は私立の全寮制で、女子校というのが両親を説得できた一番のポイントだ。

 月に一回、主治医の財前がその系列病院で臨時医として診察を受け持っているというのも大きい。


 年末年始を祖母の家で過ごすというのは建前のようなもの。

 冬休みに入ったのを機に、桃子は入寮するために他県へと向かっている。


 匠刀から離れて、新しい人生を歩む決断をした桃子。

 何度も自分自身に言い聞かせていたのに、やっぱり匠刀との別れは、相当なダメージだったようだ。

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