第75話 突きつけられる現実と初めての手紙②

「っんだよ、もうバッテリー切れか?」

「……うん」


 両親が目と鼻の先にいるというのに、桃子は珍しく俺に抱きついて来た。


 車のルームミラーで見られてるかもしれない。

 見ていなくても、当然分かっているだろうけれど。

 暫く会えないと分かっているから、俺は躊躇うことなく桃子を抱き締め返した。


「髪切ったんだから、風邪引くなよ」

「……ん」

「宿題分かんないとこあったら、電話しろよ」

「……ん」

「なんもなくても電話していいんだかんな」

「……ん」

「帰る時間決まったら、連絡して。ドルチェのケーキ買っとくから」

「フフッ、甘やかしすぎだよ」

「お前が彼女らしいことしてくんねーから、俺がしてやってんだろ」


 仰ぎ見るように顔を持ち上げた桃子は、俺の言葉に柔らかい笑みを浮かべた。

 そんな桃子の髪を、いつもみたいにそっと撫でる。

 だけど、ふんわりとしたお団子でも編み込まれた髪でもなくて。

 スッと指先が髪から零れ落ちる。

 細くて柔らかい髪質だからか。

 心なしか物足りなさを感じてしまった。


 黒々とした瞳に俺が映る。

 その瞳をじっと見つめ返していると。


「クリスマスデート、すごく楽しかったよ」

「……おぅ」

「このヘアピン、大事にするね」

「壊れたら、また作りに行けばいいじゃん」

「……そうだね」


 ステンドグラスのヘアピンは、ちょっと繊細な感じがして、雑に扱ったら壊れてしまいそう。


「おじさんとおばさんが待ってるから、もう行け」

「……うん」


 ぎゅっと抱きつく腕が緩まり、桃子の視線が両親がいる車へと向けられた。


「何日かの辛抱だろ」

「……うん」


 桃子の頭をポンポンと優しく撫でた、次の瞬間。

 コートの襟が掴まれ、グイっと引き寄せられた。


「バイバイ、匠刀」


 目いっぱい背伸びをした桃子に唇を奪われた。

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