第70話 クリスマスデートと1カット⑩

 兄貴が紳士的で人気があるのは分かってる。

 ご近所の人だって、うちの道場に通ってる保護者だって。

 いつだって好かれるのは兄貴の方だ。

 嫉妬しない方がおかしい。

 幼い時からずっと比較されて育って来た俺は、兄貴に対する劣等感を抱くようになった。

 けれど、兄貴はそんな俺をも見透かして、稽古では俺の気を逆撫でしてやる気を出させたり、根気よく付き合ってくれる根っからのお人好しだ。

 だからだよ、桃子が好きになった相手が兄貴だと分かった時。

 兄貴が相手なら仕方ないか、と思ったのは。

 他の奴だったら、何年も見守ったりしねーよっ。


「虎太くんはみんなに優しいタイプじゃない」

「……」

「匠刀は私にだけ、甘いでしょ?」

「……っんなの、当たり前じゃん」


 好きな子以外に尽くせねーっつーの。


 コートの襟をクイクイッと引っ張る桃子。

 それに応えるように口元に顔を近づけると。


「そういうさりげない優しさも含めて、私だけを大事に思ってくれてるのも嬉しいし。甘やかすだけじゃなくて、ちゃんと色々考えてくれるところとか……もうキリがないくらい全部匠刀一色だよ」


 ずっと聞きたかった答えが返って来た。

 やべぇ、めっちゃ嬉しい。

 今の俺、破顔してないか?


 俺の全てを桃子が埋め尽くすように。

 これまで桃子の中も俺で埋め尽くしたい……そう思ってた。


 男なんて単純な生き物だ。

 幼い頃に言われた、たった一言で好きになって。

 それからずっと一途に想い続けてる。


『たくとにおんぶされるの、だいすき。ここはだけだよ?』


 きっとお前は憶えてねーよな。

 具合が悪くなったら嫌なのに。

 お前をおんぶできる時が一番幸せだったんだよ。


「あ、そうだ。匠刀にクリスマスプレゼントあるんだぁ♪」

「は?」

「ちょっと待ってね~」


 そう言った桃子は、お気に入りのバッグの中に手を入れた、次の瞬間。


「LOVE♡」

「っっ……ばーか」


 取り出したのは、指ハートだった。

 にこっとと笑った顔がマジで可愛すぎんだろッ。

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